研究課題
電界減衰(Field-damping structure)型InGaAs/AlGaAs量子ドット太陽電池において、キャリア収集効率を改善するために、高ギャップ材料のAlAsSbを用いてInGaAs量子ドットを埋め込む構造を検討した。AlAsSb層がフェンスの役割を担い、伝導帯準位からInGaAs量子ドットへのキャリアの捕獲が抑制され、キャリア収集効率が大幅に改善されることを明らかにした。一方、量子ドット超格子における2段階光吸収メカニズム解明と高効率化に向けた最適セル設計の課題においては、多重積層InGaAs量子ドットを異なるバリア層材料を用いて伝導帯バンドオフセットを系統的に制御し、フーリエ変換分光法を用いて2段階光吸収による赤外光電流スペクトルの評価・解析を行った。2段階目の赤外光電流スペクトルの吸収端エネルギーと赤外光電流応答の閾値温度との間には、普遍的な線形関係があることが分かった。これにより、室温2段階光吸収の高効率動作に向けた光キャリア閉じ込めの最適化設計値が、0.46eV以上になることを明らかにした。さらに量子ドットを用いた中間バンド型太陽電池に対するデバイスシミュレータへ量子ドットの閉じ込め準位間での連続トンネル伝導効果を導入した。この結果、トンネリングにより中間バンドを介した再結合が抑制され、中間バンド型太陽電池の特性向上に寄与することを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
量子ドットを高密度に周期配列させた超格子構造内に形成される中間バンドを介した光学遷移を利用して、赤外光の光を有効に吸収し太陽電池の高効率化を図るのが量子ドット中間バンド太陽電池である。このときのポイントは、太陽光を吸収して中間バンドに励起された電子は、もう一度光子のエネルギーを吸収して、量子ドットの外へ抜け出るように作り上げることである。脱出した電子は、拡散・ドリフト中に別の量子ドットに再び捕獲されるものがでてくるが、捕獲と光励起(脱出)の過程を繰り返しながら最終的には電極まで到達できるように素子構造を最適化する必要がある。ただし太陽電池中では、吸収と再結合は常に競合する関係にあるため、生成された電子の脱出速度は、量子ドット内での発光再結合や欠陥準位などの局所準位を介した非発光再結合過程の平均速度よりも十分に速くなっていなければならない。本年度は、量子ドット超格子における2段階光吸収メカニズム解明と高効率化に向けた最適セル設計の課題において、多重積層InGaAs量子ドットを異なるバリア層材料を用いて伝導帯バンドオフセットを系統的に制御し、フーリエ変換分光法を用いて2段階光吸収による赤外光電流スペクトルの評価・解析を行った。本成果のポイントは、2段階目の赤外光電流スペクトルの吸収端エネルギーと赤外光電流応答の閾値温度との間には普遍的な線形関係があることを明らかにできた点にある。これにより、室温2段階光吸収の高効率動作に向けた光キャリア閉じ込めの最適設計値を0.46 eV以上にすることが必要と具体的な数値を見い出すことができた。
Ⅰ.InGaAs/GaAsSb系タイプⅡ超格子を用いた量子ドット太陽電池の研究(1)タイプⅡ超格子のInAs/GaAsSb量子ドット超格子の自己組織化成長において、高密度、高均一化をさらに進める。積層方向のドット間隔として10nm以下を目標とする。(2)中間バンドに光励起されたキャリアは、電子・フォノンダイナミクスの影響を強く受けたキャリア輸送特性を示すと予想される。超格子ミニバンド中でのキャリアダイナミクスをサブピコ秒の時間分解能で明らかにするとともに、デバイスシミュレーションと比較しながら最適なキャリア輸送特性を実現するために必要な超格子構造因子を突き止める。Ⅱ.高エネルギーギャップ材料の研究(1)引き続き、InP上の高バンドギャップAlGaAsSb材料の高品質エピタキシャル成長と結晶性評価を行う。(2)AlGaAsSb系トップセルとInGaAs/GaAsSb量子ドット超格子中間バンドセルの直列接続集光型セルの作製と評価を行う。電流整合の最適化及び高電圧化の両パラメータの改善に向けたデータを蓄積し、素子構造を最適化する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件) 備考 (3件)
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