研究課題/領域番号 |
26246021
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
深田 直樹 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, グループリーダー (90302207)
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研究分担者 |
宮崎 剛 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, グループリーダー (50354147)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ナノワイヤ / ヘテロ構造 / シリコン / ゲルマニウム / ドーピング / トランジスタ / 第一原理計算 |
研究実績の概要 |
本研究では、超並列計算機の京を利用した大規模第一原理計算による知見を活かして、次世代高移動度トランジスタ用チャネルを実現することが目的である。具体的には、SiとGeのコアシェルナノワイヤ構造を利用することで、不純物のドーピング領域とキャリアの輸送領域を完全に分離し、不純物散乱を徹底的に抑制できるチャネルを実現することを目的とする。本構造は高電子移動度トランジスタ(HEMT)の構造をSiとGeのIV族半導体のみの材料で、1次元ナノワイヤ内部に構築する点が特徴である。初年度は、異なる4タイプのコアシェルナノワイヤを超高真空化学気相堆積装置により成長し、その成長条件の最適化を行った。理論パートからは、オーダーN法第一原理計算プログラムCONQUESTを用いてSi/GeおよびGe/Siコアシェルナノワイヤの約4千-3万原子を含んだ系についての大規模第一原理計算を実現した。H27年度は、異なる4タイプのコアシェルナノワイヤへの位置制御選択ドーピングを行なった。コアドーピングに関しては、PドープGeナノワイヤは300℃、BドープSiナノワイヤは400-500℃で成長条件を最適化した。シェルドーピングの最適条件は、n-Ge層は500℃で、p-Si層は700℃であった。H28年度までに、i(intrinsic)-Ge/p-Siコアシェルナノワイヤにおいて、Raman分光法により光学フォノンピークに現れるファノ効果を利用することで、実験的に初めてi-Ge層内にホールガスが形成されていることの完全な実証を達成できた。更に、p-Siシェル層のBドーピング濃度を変えることでホールガス濃度の制御にも成功している。アトムプローブ法を利用した実験では、コアシェル構造内部の元素の3次元分布を調べ、ドーパント不純物原子の3次元分布を明らかにできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、実験および理論両面において、当初の計画書に記載したほぼ全ての内容を達成できている。研究実績概要にも記載したように、実験のパートに関しては、1)構造の異なる4タイプの(n-Ge/i-Si、p-Si/i-Ge、i-Ge/p-Si、i-Si/n-Ge)コアシェルナノワイヤの形成、2)コアシェルナノワイヤ中のコアおよびシェルそれぞれへの位置制御選択ドーピング、3)Raman分光法を利用することで、i-Ge/p-Siコアシェルナノワイヤにおいて、実験的に初めてi-Ge層内にホールガスが形成されていることの完全な実証までできている。特に3)の結果はIV族であるSiおよびGeのみを利用して高電子移動度トランジスタ(HEMT)の構造を1次元のコアシェルナノワイヤ内部に確かに構築できたことを示す結果であり、本基盤研究Aでの重要な目標の1つを達成できた結果となっている。更に、p-Siシェル層のBドーピング濃度を変えることでホールガス濃度の制御、アトムプローブ法を利用したコアシェル構造内部のSi/Geおよび不純物原子の3次元分布の計測にも成功している 一方、理論のパートに関しては、1)オーダーN法第一原理計算プログラムCONQUESTを利用し、Si/Geコアシェルナノワイヤ構造(約4千-3万原子系)に対する構造最適化計算に成功し、2)Si/Geコアシェルナノワイヤ内部の応力分布の計算およびは応力分布の表面構造依存性について明らかにすることに成功している。更に、3)Si/Geコアシェルナノワイヤ内部の電子状態に関する計算も実施し、コアシェル構造とそのサイズに依存した内部の電子状態に関する興味深い新しい知見を得ている。これらは、オーダーN法第一原理計算プログラムCONQUESTを利用したナノワイヤ系での初めての成果であり、世界最大規模の第一原理算によって初めて可能になった研究といえる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である29年度の研究計画としては、新たなSiとGeのコアシェルナノワイヤ構造内に形成される動径ヘテロ接合によるホールガスの分離蓄積実証を行い、高電子移動度トランジスタ(HEMT)の実現に向けた指針を示す。これまでにコアに不純物をドーピングしていないGeナノワイヤ(i-Ge)、Siシェル層にアクセプタ不純物であるボロン(B)をドーピングした(p-Si)シェルからなるi-Ge/p-Siコアシェルナノワイヤを中心に、構造の形成、界面制御、不純物の位置制御選択ドーピングを中心に行ってきた。本構造は、キャリア(ホール)がナノワイヤ表面のシェル層ではなく、内部のナノワイヤ部を流れるため、表面散乱の影響がなく、高移動度化が期待できる。一方、最終的なデバイス構造を考えると、コアがSiナノワイヤであればプロセス的に有利となる。しかしながら、キャリアの蓄積はシェル側に変わるため、表面散乱の影響が懸念されるが、ヘテロ接合によるバンド構造を考慮するとホールガスはSiとGeの界面に存在することが期待されるため、それほど大きな表面散乱はないと考えられる。そこで最終年度では、これまでとは逆構造のp-Si/ i-Geコアシェルナノワイヤにおいても構造の形成、界面制御、不純物の位置制御選択ドーピングを行い、動径ヘテロ接合によるホールガスの分離蓄積実証を行う。最終的には、電気的特性評価も行い、本研究で提案した構造の有用性について実証する。 理論計算に関しても、逆構造コアシェルナノワイヤまで含めたコアシェルナノワイヤ構造のモデルを作製し、応力分布と電子状態に対して、半径・構成比依存性や界面構造依存性を詳細に調べる。その結果、不純物のドーピング領域とキャリアの輸送領域の分離状況をシミュレーションし、実験における構造最適化に役立てる。
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