物質中の電子の動きを捉えることができるアト秒パルスレーザーは、物理学や化学のみならず生物・医科学等の分野においても今後必須のツールとなると考えられる。2001年にアト秒パルスおよびパルス列の発生が観測されて以来、その発生・計測法ならびに利用は、急速に発展してきたが、未だに波長域、エネルギー、平均出力等は十分ではなくその応用範囲を制限している。特に、単一アト秒パルスに関しては、その強度および繰り返し速度は、目標となる計測に必要とされるレベルには達していない。本申請では、申請者らがこれまで開発してきた2波長励起による高強度の単一アト秒パルスの発生法をさらに高度化し、その波長域をサブkeV領域にまで拡張するとともに、リング型共振器を用いた新しい超高繰り返しアト秒パルス光源を開発し、アト秒科学の先端を切り開くことを目的とする。 平成26年度は、我々の考案した赤外パルスを用いた2波長励起法による高強度単一アト秒パルスの短波長化ならびに短パルス化を行い、その時間波形を自己相関法を用いて計測するための装置の設計と予備実験の準備を開始した。実験では、励起光のエネルギーをメインパルスとアシストパルスで各々約20mJと4mJに増強するとともに、10cmのガスセルに焦点距離5mのレンズで緩やかに集光し高エネルギーの連続スペクトルを発生する。さらに、Siのビームスプリッターを介して、励起光を除去したのち、Mo/Si多層膜鏡で飛行時間型質量分析装置に設置されたHeガスジェット中に集光する。このとき多層膜鏡の帯域を43~53eVに設計することにより、Heの2光子二重電離により発生するHe2+イオンを信号とする自己相関計測が可能になる。
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