昨年度に引き続きVLF-ROA装置の開発とスペクトルの測定を試みた.VLF-ROA装置においては,2枚の極低波数用ノッチフィルターを用いていたが,装置由来の偽信号が強く発生したために,ROA信号を測定することが出来なかった。本年度は,これらノッチフィルターをエッジフィルターに置き換えることを試みた。その結果,~60 cm-1まで測定可能なVLF-ROA装置が完成した。これまでのROA装置の測定下限は~180 cm-1であったが,我々のVLF-ROA装置によって120 cm-1も測定範囲を広げることができた。モデル不斉分子として,2-フェニルプロピオン酸のROA測定を行ったところ,これまで測定不可能であった180 cm-1以下に,高波数側ピークの2-3倍の強度を示すROA信号が観測された。量子計算との比較から,その一つは酸の水素結合を直接反映する振動ピークであることが分かった。さらに,キラル高分子の典型例として,αヘリックス構造をとるポリ-L-アラニン溶液の測定を行ったところ,やはり180 cm-1以下に,高波数側ピークと比べて5倍程度強度の強いピークが観測された。これらの結果から,180 cm-1以下の低波数領域には強い振動キラリティが現れることが分かった。分子全体の振動運動によってキラリティが強く現れるのだと予想される。 また,昨年度に引き続き, THz自由電子レーザーを用いた高分子構造操作研究を行った.昨年度までの成果を発展させ,生体高分子であるアクチンを対象としたテラヘルツ光照射実験を行った.蛍光標識したアクチン水溶液に高強度テラヘルツ光を照射し,蛍光強度の変化からアクチン重合過程におけるテラヘルツ照射の影響を観察した.
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