研究課題
該当年度は、これまで申請者らが開発してきた低温高圧条件で稼働する中性子回折装置の低温到達温度を液体窒素温度(77K)から20-30K程度まで拡げる装置開発を行った。科研費の繰り越し制度を利用したが、装置設計、装置製作は当初の計画通りに進行し、低温高圧装置が完成し、茨城県東海村の大強度陽子加速器施設(J-PARC)の物質・生命科学実験施設(MLF)に申請者らが中心となって建設した高圧中性子ビームライン(PLANET)で本装置の使用を開始した。本装置を用いることにより、低温条件における氷の高圧相の構造、具体的には氷の高圧相への塩の取り込み、水素原子の秩序化に関する実験を開始した。本装置は低温条件で自在に圧力を制御できることが最大の特徴で、このような性能を有する低温高圧装置はこれまで中性子回折実験では用いることができなかった。我々の装置開発の情報は、世界の中性子回折関係の研究者に周知されており、既にいくつかの共同研究の提案を受けている。当該年度は前述のような実験を何回か行い、それぞれについて新たな知見が得られたが、今後はさらに研究対象が広がることが大いに期待される。当該年度に得られた研究結果については国際誌に投稿することができた。本研究に関連して、高圧相の氷が共存する系において、アミノ酸が圧力誘起オリゴマー化する現象を新たに発見した。このことは氷惑星内部において有機物の進化が起こり、生体関連分子の生成が起こりうることを示している。
2: おおむね順調に進展している
研究計画で提案した低温高圧装置は、計画通りに製作が完了し、この装置を利用した研究成果も着実に得られつつある。また、氷に関連した有機物進化に関する研究成果も得られており、研究は概ね順調に進展していると判断できる。
本研究計画で中心的な課題であった低温高圧装置が完成したので、今後はJ-PARC MLFにおいて、低温高圧条件での中性子回折実験を積極的に推進し、氷の構造、新たな高圧相の発見、氷の共存する条件での有機化合物の構造変化や圧力誘起反応などの研究を推進していく。将来的には、本装置を用いた共同研究が広がる可能性が高く、研究計画で想定していなかった成果も得られるのではないかと期待している。研究を遂行する上での問題点は特にない。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
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