前年度に正標数の完全体上スムーズな多様体上の一般の層に対し特性サイクルが定義されることを証明したので、今年度はそれをうけて特性サイクルの性質を研究した。まず、特性サイクルが層の暴分岐だけで定まることを証明した。Beilinson氏の示唆をうけて、2つの層の暴分岐が等しいことを、コンパクト化の各点での惰性群の位数がp巾の群に対し、その作用の不変部分の次元が等しいこととして定義した。このことから、オイラー・ポワンカレ標数が等しいことが従うことを示し、さらにそれを使って特性サイクルが一致することを導いた。この結果は谷田川氏との共著論文として発表予定である。 特性類と固有射による順像との整合性を研究した。特異台の順像の次元が射の行き先の多様体の次元と一致するという仮定のもとで、特性サイクルの順像との整合性を証明した。行き先が曲線の場合が基本的であり、この場合には導手公式にあたる。特に定数層の場合には、Bloch氏が80年代に定式化した予想の幾何的な場合を証明した。行き先が曲線の場合には、局所非輪状性やそれを導く性質である特異台横断性について、安定還元定理を証明した。これと前年度に証明した指数定理を組み合わせることにより、導手公式を導いた。この結果については論文を準備中である。 5月に函館、6月に韓国ソウル、7月に台北で行われた数論幾何の国際研究集会で特性サイクルの理論について講演した。また、9月に関西大学で行われた日本数学会総合分科会の特別講演でも成果を発表した。6月にはK3曲面のTate予想をテーマとする数論幾何の研究集会を主催した。保型表現の世界的な権威であるNgo氏を、主催する高木レクチャーに招へいしラングランズ関手性に関する講演をしてもらった。数論幾何が専門のポスドクを1名雇用した。
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