研究課題/領域番号 |
26247008
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
竹田 雅好 東北大学, 理学研究科, 教授 (30179650)
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研究分担者 |
上村 稔大 関西大学, システム理工学部, 教授 (30285332)
桑田 和正 東京工業大学, 理学院, 准教授 (30432032)
日野 正訓 京都大学, 理学研究科, 教授 (40303888)
桑江 一洋 福岡大学, 理学部, 教授 (80243814)
会田 茂樹 東北大学, 理学研究科, 教授 (90222455)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ディリクレ形式 / 対称マルコフ過程 / 測度距離空間 / 無限次元空間上の確率解析 / 飛躍型マルコフ過程 / ラフパス解析 |
研究実績の概要 |
代表者竹田は、対称マルコフ過程に対して、既約性、強フェラー性、緊密性なる三つの性質をもつクラス(クラス(T))を導入し、その性質、特にスペクトル的性質を調べてきた。そのクラスに属するマルコフ過程が生成する半群はコンパクト作用素となり、全ての固有関数が有界連続となることを示した。吸収壁ブラウン運動がクラス(T)に属する条件を確認し、その基底を用いてh-変換して構成される対称拡散過程もまたクラス(T)に属するための十分条件をえた。変換してできるマルコフ過程に対して前年度までに示された初期値に一様なドンスー・ヴァラダーン型大偏差原理を応用することで、局所一様なドンスカー・ヴァラダーン型大偏差原理の下からの評価を、吸収壁ブラウン運動に対して示した。 桑田は、ペレルマンのW-エントロピー汎関数の単調性における剛性定理を測度距離空間上へと拡張し、関連する幾つかの単調性公式を得た。また、測度距離空間の枠組みで,無限次元曲率条件から定まるスペクトルギャップの剛性定理を証明した。日野は、強局所対称ディリクレ形式に低階の摂動項を加えた非対称形式に付随する半群の短時間漸近挙動について研究し、半群が積分型ヴァラダーン評価を持つための十分条件を与えた。桑江はファインマン・カッツ半群のスペクトル半径のLp-独立性について、マルコフ過程の既約分解に関する結果示し、既約性を仮定せずに一般的な結果を得た。上村は、与えられたデータ(拡散係数・特性関数・飛躍密度関数等)の条件を用いて、対応するユークリッド空間を状態空間とする対称ディリクレ形式がモスコー収束するための十分条件を与え、モスコー収束が対応する拡散過程の経路の大域的性質に対して安定的でないことを示した。会田は反射壁確率微分方程式を含むようなラフパスで駆動される経路依存の微分方程式を定式化し解の存在および評価を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
竹田は、緊密性をもつ対称マルコフ過程の性質として、初期値に対する一様なドンスカー・ヴァラダン型大偏差原理、半群のコンパクト性と対応する固有関数の有界連続性などを示した。対称マルコフ過程の緊密性は、これらの性質をもつ適切な条件であることが分かってきた。シュレディンガー作用素のグリーン関数に関するポテンシャルに対する最大値原理の変種を、固有関数の有界連続性を示す過程で示した。マルコフ核の場合には、測度のポテンシャルの最大値は測度の台上でとる。シュレディンガー作用素のグリーンの場合には、ポテンシャルの最大値は測度の台上での最大値とファインマン・カッツ汎関数から定義されるゲージ関数の最大値の積で上から評価される。この事実の応用として、シュレディンガー形式の劣臨界性、臨界性の解析的な特徴付けを与えることに成功した。二階の楕円型微分作用素に対する臨界性理論については多くの研究があるが、形式に対する臨界性理論は新規性がある。 分担者、桑田、桑江は測度距離空間上の幾何解析について研究し、幾何への応用を考慮して福島分解の初期値に関する精密化を行った。この分野に広く応用を持つと考えられる。桑田の研究は確率論サマースクールの主テーマとして取り上げられ、多くの招待講演を行った。29年度にはボン大学に招聘され、一年間の講義を受け持つ予定である。分担者日野は松浦との共同研究で、ヴァラダーン型の評価として有名な熱核の短時間漸近挙動に関する結果を非対称局所ディリクレ形式から構成されるマルコフ過程の推移確率に対して拡張した。無限次元空間上のディリクレ形式に適用可能な結果である。モスコー収束が拡散過程の大域的性質を保存しないこと、反射壁確率微分方程式を含むようなラフパスで駆動される経路依存の微分方程式を定式化などの上村、会田の研究は、新規性のある重要な研究課題で、これからの研究テーマを提出している。
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今後の研究の推進方策 |
緊密性をもつ対称マルコフ過程のクラスについての研究を進める。保存的である場合は、オールンシュタイン・ウーレンベック過程より強いエルゴード性を持つことが分かっている。実際、無限遠点近傍からコンパクト集合への到達時刻が指数可積分性を持つ、すなわち無限遠点から直ぐにコンパクト集合に到達することを示している。この事実を使ったヤグロム極限への応用を目指す。本課題に上げた主要テーマは, 確率論的ポテンシャル論の基礎理論、特にディリクレ形式の理論を主要な道具とすることで深く相関している。 個々のテーマに応じてディリクレ形式に付随する確率解析を整備することは、これからの発展につながる最重要な課題である。本年度は本課題の最終年度であり、これまでに得られた最新の手法・問題意識など再検討する。12月に仙台で開催予定の「確率過程とその周辺」にすべての分担者に参加を要請し、特異な空間上のディリクレ形式、飛躍型ディリクレ形式に対応する基本解の評価、対応する半群の超縮小性、ディリクレ形式に付随する確率解析の鍵となる福島分解の精密化などを中心に研究打ち合わせを行う。特に、福島分解の拡張、精密化は本課題全体にかかわる基礎となる。飛躍型ディリクレ形式の場合には、福島分解は、局所性の欠如のため、ディリクレ空間の要素に対してのみなされていた。最近になって、レビィ測度から決まるディリクレ空間より広い空間に対しても福島分解が可能であることが、分担者桑江により示された。この応用として、広範なディリクレ形式に対してハーディ型不等式の確率論的証明を与える。また、対称マルコフ過程が推移確率密度関数をもつ場合に、すべての初期値に関する福島分解を行う。このことは、測度距離空間空間上の幾何に対称拡散過程に応用する場合には必要になってくると考えられる。
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