研究課題/領域番号 |
26247013
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
鈴木 貴 大阪大学, 数理・データ科学教育研究センター, 特任教授(常勤) (40114516)
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研究分担者 |
太田 雅人 東京理科大学, 理学部第一部数学科, 教授 (00291394)
森田 善久 龍谷大学, 理工学部, 教授 (10192783)
大塚 浩史 金沢大学, 数物科学系, 教授 (20342470)
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研究期間 (年度) |
2014-06-27 – 2019-03-31
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キーワード | 反応拡散方程式 / 半線形楕円型方程式 / 数理腫瘍学 / 渦糸系 / 反応ネットワーク / 平均場極限 / ロトカ・ボルテラ系 / ストレス応答 |
研究実績の概要 |
力学系、システム生物学、解の先験的評価を用いた新しい数理モデリングと数学解析を開発し、生命科学、数理物理学の各分野に応用して成果を上げた。細胞膜を通した内外のシグナル受容とフィードバックによって細胞が変形する動態をレベルセット法によって数理モデリングしその時間局所的な適切性をしょうめいした。点渦系の自然な拡張として多強度渦糸系の平均場極限方程式を導出し、その数理的構造を解明した。空間分布をもつ生態系個体数や化学反応のモデルについて、多種の相互作用によって見かけ上の特異性が解消して解が無限時間まで延長され、次第に空間的に均質化する様相について、走化性、化学反応素過程、発生の各問題について明らかにした。空間均質系については安定な周期解が生成される状況、反応系のグルーピングが素過程反応ネットワークで有効なことをそれぞれロトカ・ボルテラ系、MT1-MMP系で明らかにした。数理医学の様々な課題を7つの視点で整理して教科書を策定し、同時に国内で展開されている最先端の研究を40程度選び、5編の解説論文と合わせて一書を編纂した。次いで生命現象の数理モデリングによる基礎医学研究を展開し、骨代謝、NF-κB経路についてシステム生物学と力学系理論を用いた新規研究方法を開拓した。数理物理学分野では、脳磁図分析で使われている古典的モデルの解析から2重層ポテンシャルのスペクトル構造と界面の形状に関する逆問題にたどり着き、空間2次元の場合に肯定的に解決した。基礎解析の分野では爆発解析を用いて退化する係数を持つ楕円型方程式の解の先験的評価を導出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで扱ってきた個別の問題により、正準集団における相互作用が臨界指数の場合に量子化する爆発機構が現出するという原理が確立したのを受けて、本年度は小正準集団がつるく平均場の時間変動を数学的に明らかにする研究を進めた。小正準集団では3つの保存則が成り立ち、結果として解の爆発はおこらず時間とともに空間的に均質化するということが指針であったが、生態系、形態発生、化学反応のそれぞれについては、いずれも熱力学的構造が数学解析に反映されて、予想通りの結果が得られている。これらの数学的な成果を動機として細胞生物学の研究に進み、骨代謝における細胞分化とストレス応答によるシグナルフィードバックの減衰振動とリン酸化の関係について、システム生物学の方法による数理モデリングと力学系理論を用いて実験データによる生物学仮説を裏付けることに成功した。また線形、非線形の積分方程式、偏微分方程式についての基礎解析でも新たな成果が得られ、統計力学と非線形数学を結ぶ本研究の方針が数理物理学、理論生物学、細胞生物学、解析学の各分野で着実に確立しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
数理腫瘍学の分野ではこれまでのシステム生物学的な数理モデリングの方法に加えて、輸送理論によって組織レベルから見た細胞集団の空間分布の時系列動態のモデリングと、揺らぎを入れた数値シミュレーション法を確立することによって、臨床への応用を具体化する。小正準集団の記述については時間動態も考慮に入れ、準平衡から平衡に向かう緩和時間の平均場モデルをエントロピー生成最大原理によって導出して数学解析を試みる。反応拡散系については相互作用が臨界指数を越えた場合でも、相互作用による特異性の消滅に加えて各成分の正値性による先験的評価が有効に働いて、解が大域的に存在して空間均質化したり、臨界パラメータで関数不等式が達成される様相を明らかにする。
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