研究課題/領域番号 |
26247016
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小澤 正直 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (40126313)
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研究分担者 |
浜田 充 玉川大学, 付置研究所, 教授 (10407679)
北島 雄一郎 日本大学, 生産工学部, 准教授 (40582466)
西村 治道 名古屋大学, 情報科学研究科, 准教授 (70433323)
Buscemi F. 名古屋大学, 情報科学研究科, 准教授 (80570548)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 完全正値インストルメント / von Neumann代数 / 量子測定 / 量子集合論 / 不確定性関係 / 代数的量子場理論 / 量子対話型証明 / 盗聴通信路 |
研究実績の概要 |
【不確定性】ブシェーミ,小澤は最近提案した情報論的誤差擾乱関係式をウィーン原子研の長谷川と共に,中性子のスピン測定によって実験的検証を行い,理論的な予測を完全に裏付けるデータを得た.小澤と長谷川は,究極的な誤差擾乱関係式の混合状態に対する実験的検証を行った. 【相補性】小澤は,佐々木含意,対偶的佐々木含意,相関論理的含意の3種の含意に基づく量子集合論を展開して,実数の順序構造の相違を明らかにした. 【情報論的非局所性】ブシェーミは、情報理論的観点から開放系の時間発展を研究し,マルコフ性と条件付きエントロピーの増大性が同等であることを示し,記憶のない過程に対する第2法則の妥当性を明らかにした. 【計算量的非局所性】西村は,1ラウンドの量子対話型証明について,その計算量的性質や計算構造について研究を進め,検証者の操作がEPR対の片方を送るという操作に限定された1ラウンドの量子対話型証明を新しく提案し,事前に定数ラウンドの古典通信を追加しても検証能力が不変であることを証明した. 【相対論的非局所性】北島は,確率空間が共通原因で閉じているという性質の特徴づけを与え,量子力学と相対論を数学的に厳密に統合しようとする試みである代数的場の量子論における確率空間は、共通原因で閉じていることを導いた.小嶋と岡村は,長浜バイオ大の西郷と共同で局所量子物理学において「局所状態」概念と局所状態に対するセクター理論を整備し,またC*-代数上の状態に対する直交分解理論をC*-代数からvon Neumann代数への完全正値写像の場合に拡張して,代数的量子場理論におけるセクター概念を著しく簡素化することに成功した. 【量子暗号】浜田は,昨年度までに単一量子ビット系のユニタリ演算子構成アルゴリズム(最小分解法)を与えたが,更なる発展を目指し,その基礎となった浜田の補題を強化しより一般的な状況を扱えるようにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
不確定性原理に対する新しい関係式の理論的導出及びその実験的検証に関して当初の計画以上の成果がえられ,今年度,Physical Review Letters に掲載され,Editor's suggestion に選ばれる等,極めて高い評価を得た.昨年の研究で得られた局所物理量に関する測定理論は,今年度1月に Journal of Mathematical Physics に掲載され,3月の Most Read paper に選ばれ,当初の想定以上の高い評価を得た.共通原因に関する研究は,すでに科学哲学分野で評価の高い学術誌に掲載され,当初の計画以上に進展している.1ラウンドの量子対話型証明に関する研究は,当初の計画以上に進展し,昨年度の SIAM. J. Computing に引き続き,今年度2本の論文が量子情報分野で極めて評価の高いQuantum Information & Computation に掲載された.量子測定及び開放系の時間発展の研究に情報理論的な方法を応用する研究は,当初の計画以上に進展し,既に,Physical Review Letters と Physical Review A に掲載されている.また,量子暗号に関する研究も,昨年度すでにRoyal Society Open Scienceに論文発表を行い,当初の計画以上に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
不確定性原理の課題では,誤差作用素に基づく誤差概念に対する健全性と完全性を概念を明らかにして,状態依存的不確定性関係が不可能であるという誤解を解消させる計画である.さらに無限自由度系での測定過程の記述に基づいて,無限自由度量子系における普遍的な不確定性関係の導出を目指す。相補性の課題では,量子論理の異なる含意結合子が導く実在概念の相違について研究を進める.情報論的局所性の課題では,引き続き量子対話型証明や量子版NPについて研究を進める予定である.とくに今年度得られた量子版NPにおける検証者の操作を限定した場合の成果を端緒にして,検証者の能力が(場合によっては現在の量子情報技術で実現可能なレベルまで) 限定された状況での量子対話型証明および量子版NPの検証能力について理解を深める予定である.情報理論的な観点による量子測定及び開放系の時間発展の研究を継続する.特に,エントロピー増大,情報量獲得,及び,非可逆性の間の相互関係を研究する.量子測定と開放系における情報の力学に関する一般的な命題を定式化することを目的とし,情報熱力学の他の方法との相違点や類似点を明らかにする計画である. 相対論的局所性の課題では,セクター概念の新しい定式化について研究を進め,対称性の破れの新しい記述法,セクター概念の扱いにおいて一旦背後に退いた散逸性を対称性の破れとの関連で再抽出する可能性等々の問題に即してその有効性を検証し,対称性概念の保存系的含意と完全正写像が intrinsic に内包する散逸的本質との効果的な橋渡しを可能にして,測定過程に対する簡潔な見方がもたらされることを目指している.
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