研究課題
マイクロ波力学インダクタンス共振回路(MKID)を用いた観測周波数90-100GHzの超伝導電波カメラの改良を行い、野辺山45m電波望遠鏡に搭載して実際の観測に供することのできる連続波電波カメラを開発した。前年度の試験観測において45m電波望遠鏡に搭載して試験観測をした結果、感度が不十分であり、また歩留まりは半分以下と低かった。その原因を明らかにし、以下の改善を施した。①感度が不十分な理由がMKID素子の前のレンズが冷却に伴って破損していたためであることがわかった。そのためレンズの材料、形状、製作方法を新しいものに変え、冷却しても熱膨張の違いによる破損が起きないレンズとした。②歩留まりが悪かった理由は、MKIDS素子の製作時間に余裕がなかったために素子製作のパラメータの最適化が十分にできなかったためであった。そのため、今回は素子製作のパラメータを何度か変えて試作を繰り返し、最適なパラメータを決定して歩留まりを7割以上に向上させた。③電波カメラの周波数多重化された出力を読み出し、高速フーリエ変換して1素子毎の入力電波強度に比例した周波数遷移量を決定できる読み出しシステムを改良した。すなわち、観測データ取得用計算機にデータ取得開始命令を与えてから実際に取得開始までの時間を通信方法の改良により大幅に短縮し、またデータ取得後に解析処理を開始できる時間も短縮した。さらに④観測天域をマッピングするときの観測パラメータを決めるためのシミュレーションソフトの開発を行い、109素子でマッピングしたときの観測領域内の場所ごとの感度をできるだけ均一にできるような観測パラメータの決定を可能にした。⑤高赤方偏移にある銀河のダスト放射を観測して銀河の物理パラメータを決める解析手法の検討を行った。なお、45m電波望遠鏡に再搭載して観測を行うところまではいかず、それは次年度に繰り越しとなった。
2: おおむね順調に進展している
前年度までの試作機における不具合に対処しただけではなく、新しい技術を開発して性能を大幅に向上させることができた。これにより、野辺山45m電波望遠鏡に搭載して実際の観測に供することのできる実機を開発することができた。①検出素子MKIDの試作を繰り返し、製作パラメータの最適値を決定することができて歩留まりを5割以下から7割以上に向上させることができた。もう少し追い込めば9割まで高くすることができると期待される。②焦点に位置する検出素子MKIDのところに入力電波を集めるための集光レンズを極低温に冷却しても破損しないようにするために、ガラスビーズを用いた新しい構造のレンズを開発し、冷却しても熱膨張の違いによる破損が起きない低損失で高屈折率のレンズの製作に成功した。③観測データ読み出しシステムを大幅に改良し、観測時の実観測以外の準備時間等を大幅に削減して観測の効率化を図ることができた。④観測時の観測パラメータの最適地を得るためのシミュレーションシステムを開発し、観測領域内の感度の均一化の目途が立った。⑤高赤方偏移銀河を観測したときの銀河の物理量を計算する方法を検討した。進捗が遅れている点は、この観測用実機を実際に野辺山45m電波望遠鏡に搭載して試験観測を行うところまではいかなかったことであるが、これは次年度に行うことで対処できると考えている。
開発した超電導MKIDカメラの実機を野辺山45m電波望遠鏡に搭載して試験観測を行い、望遠鏡+電波カメラとしての性能評価を行う。その性能評価とは、素子毎の感度、ビームパターン、ビームサイズ、開口能率、主ビーム能率、安定性などであり、点源であるクェーサーや電波銀河および電波輝度が既知である惑星を用いて測定を行う。また観測データの解析システムが正しいことを確認するため、電波分布が既知の銀河や銀河系内天体をマッピングして、他の望遠鏡によるマップと比較する。性能が当初予定のものを達成していれば、実際に天体を観測して科学観測を開始する。まずは電波強度の強い近傍の爆発的星形成銀河であるメシエ82やきれいな渦巻き構造を持つメシエ51のマッピングを行う。さらに銀河面(天の川)の掃天観測や本研究の最終目標であるあかり北極天域のマッピング観測に向かう。
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EEE Transactions on Terahertz Science and Technology
巻: 7 ページ: 295-301
10.1109/TTHZ.2017.2692045