研究課題
太陽コロナのダイナミクスを解明するための、スペースからの太陽観測用超高精度Wolterミラーの研究を進めている。本研究では、X線に対してサブ秒角の結像性能を持つWolter表面を実現するため、(1) 空間周波数帯ごとに形状誤差の改善課題・改善目標を設定し、(2) 目標を達成するためのミラー研磨方法と工程を定め、(3) それに従って研磨を実施し、(4) X線による集光計測によって研磨方法・工程を検証し課題を抽出する、というサイクルを採り、着実な進展を期している。平成25年度までに進めてきた試作で抽出した課題をふまえ、平成26年度は、ミラー表面における1mm程度の空間スケールでの形状誤差を抑制することで、特にメリディオナル方向(ミラーの面外方向)の集光性能を改善することに注力した。この結果、試作したミラーのSPring-8/BL29XULでのX線計測(8 keV)から、ミラーのサジタル方向(ミラー面内方向)だけでなく、メリディオナル方向についてもFWHM幅で5μm程度(角度スケールで<0.3秒角)に集光できていることが確認できた(サジタル方向のサブ秒角集光は、平成25年度の段階で達成済)。しかしながら、(a) 空間スケール1mm前後での形状修正が今一歩不十分で、このため集光コアのすぐ外側の散乱成分が多く、HPDは大きな値(60μm程度; 角度スケール約3秒角)にとどまっていること、(b) 特にメリディオナル集光の焦点距離が設計値とずれている(研磨加工時のミラー表面のsagを定める絶対位置の誤差で6.5nm程度に相当)こと、を次年度に向けての主たる課題として抽出した。
3: やや遅れている
平成25年度のミラー試作研磨とX線計測を経て抽出した課題のうち、平成26年度は特にミラーの面外方向の集光性能を改善することに集中し、この点については、(面内のみならず)面外方向にも、集光点においてFWHM幅でサブ秒角サイズの集光を果たすことができた。しかしながら、特にX線集光コアのすぐ外側の散乱レベルがまだ高い。また、研磨時の基準位置設定の微小な誤差(10nm未満)に起因すると考えられる、焦点距離の設計値からのずれも認められる。ミラーの大型化試作に乗り出す前に、これらの課題を解決するメドを立てる必要があると判断している。平成26年度はWolter表面創成に注力することでX線集光性能については期待する成果を得たが、散乱レベルの抑制など、総合的な超高精度Wolter表面の創成にはなお課題のあることをふまえ、達成度を評価した。
ミラーの大型化試作に先立ち、X線集光コアのすぐ外側の散乱レベルの抑制および、焦点距離ずれの原因究明と対策の策定など、平成26年度に抽出したWolter表面創成の残課題の解決を図る。前者については、周期長0.1-数mm程度の形状誤差リップルを低減するための研磨工程を導入する(テストピースおよび研磨シミュレーションによる性能評価を実施中)。後者については、研磨時に用いた計測器の、測定再現性を含めた特性確認を通じて、原因の特定と対策の検討を進める。これらを受けて試作するミラーをSPring-8/BL29XULでのX線計測に供し、所期の改善が果たされていることを確認する。これと並行して、ミラーの大型化を見越した、保持の解析検討にも着手し、太陽コロナ観測のための超高精度Wolterミラー国産開発のための研究を推進する。
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Proc. SPIE
巻: 9144 ページ: 91443D (8pp)
10.1117/12.2055925