研究課題
太陽コロナのダイナミクスを解明するための、スペースからの太陽観測用超高精度Wolterミラーの研究を進めている。平成26年度の研磨試作とX線集光計測から、集光コアのFWHM幅として5μm程度(角度スケールで<0.3秒角)を達成した。一方、(a) 集光コアのすぐ外側の散乱成分が多く、HPDは大きな値(60μm程度; 角度スケール約3秒角)にとどまっており、これを改善するには空間スケール1mm前後での形状修正がもう一歩必要、(b) 特にミラー面外方向の集光焦点距離が設計値とずれていること(研磨加工時のミラー有効領域でのsag誤差で6.5nmに相当)、の2つを主たる課題として特定した。これらの課題を克服するため、当年度は、(A) 1mm前後の空間スケールでの形状を改良するための研磨加工方法(磁性流体研磨と平滑化研磨の研磨パラメータと加工順序)の策定と研磨の実施、(B) sag誤差分を取り込んだ修正研磨の実施、を進めた。途中、計測結果の信頼性を確認する工程が必要となったため、当年度はX線計測には進んでいないが、研磨加工途中の暫定的な形状計測では、(A)の目標とした形状精度をほぼ達成している見込みである。また、(B)で対応を進めているsagずれは、最終的にはミラー表面への金属成膜の膜厚調整によって補正することを予定しており、補正実施に向けた成膜装置の整備を進めた。これらと並行して、NASA観測ロケットへの搭載を念頭に、ミラー保持手法の予備的検討に着手し、研磨加工時およびX線計測時のミラーの重力変形を抑制するミラー基板の寸法や保持位置を定めた。
3: やや遅れている
昨年度の研磨結果(1mm前後の空間スケールでの加工残差がまだ若干大きいこと、および、ミラー有効面の形状で光軸方向に6.5nmのsagずれが存在すること)を受け、当年度は課題の解決に向け、精密研磨の加工方法の策定と研磨の実施に注力し、ミラー研磨の加工限界を見極めることを目指した。加工の一段階ごとに結果の評価と確認を行ない、また、加工時の計測結果の信頼性を確認するなど慎重なアプローチを採って研磨・計測を進めたこと、また、X線計測を行なうSPring-8/BL29XULのマシンタイムの制約から、本来、当年度を予定していたミラー結像性能のX線評価には至っていない。このことをふまえて達成度を評価した。
平成26年度の試作研磨で判明したX線集光コアのすぐ外側の散乱レベルの抑制および焦点距離ずれ(ミラー有効面形状に存在するsagずれ)への対策を取り込んだ精密研磨を平成27年度に進めている。平成28年度はX線評価計測を通じて精密Wolter表面創成手法の完成(加工限界の見極め)を図る。このうちsagずれは、最終的には、X線による焦点距離評価を経てミラー表面への金属成膜の厚さを調整することで補正する予定であり、補正成膜の予備的な試行に着手する。一方、平成27年度までの検討により、当面の目標とするNASA観測ロケットへのミラー搭載実証に向けては、ミラーの大型化は必ずしも必要ない(現在研磨試行しているミラー有効領域のサイズでも統計精度を確保した観測が可能)ことが判明したため、ミラー大型化のための研究の優先度は下げ、現行ミラーの有効領域サイズに対するミラー基板の保持と、飛翔体搭載に向けたミラーと入射スリット等周辺構造物のユニット化の詳細検討を図る。これら一連の研究活動により、太陽コロナ観測のための超高精度Wolterミラー国産開発のための研究を推進する。
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Proc. SPIE
巻: 9603 ページ: 96030U (9pp)
10.1117/12.2188905