研究課題
平成27年度までのミラー試作とSPring-8/BL29XULでのX線集光計測(8keV)によって、ミラーのサジタル方向(ミラー面内方向)・メリディオナル方向(ミラー面外方向)それぞれについて、FWHMで5μm程度(角度スケールで<0.3秒角)の集光性能を達成した。それと同時に、改善すべき主たる課題として、(a) ミラーに対する空間スケール1mm前後での形状修正があと一歩で、このため集光コアのすぐ外側の散乱成分がなお多く、HPD(Half Power Diameter)は不十分な値(60μm程度; 角度スケール約3秒角)にとどまっていること、(b) 非点収差が存在し、特にメリディオナル集光の焦点距離がずれていること(ミラー有効面端部で6.5nmのsagずれに対応)、の2点を特定した。平成28年度は、前年度に引き続き上記2課題の克服に注力し、(a)については磁性流体研磨と平滑化研磨の分担する空間スケールを最適化することで、1mm前後のスケールでの形状誤差の低減に成功した。また、(b)については、当初、当該sagずれを修正加工量に組み込んでの研磨を検討したが、研磨の際に用いている機械式形状計測機にnmレベルの系統誤差が存在することを突き止め、この系統誤差を除去しての計測・修正研磨を実施した。これら改善研磨加工を行なったミラーに金属蒸着を施し、SPring-8にてX線(8keV)の結像性能評価に供した。この結果、当ミラーの集光コアはFWHMで0.1秒角、HPDでも0.2秒角以下を実現し、天文観測用途に向けたWolterミラーとして世界最高の性能を達成した。また、焦点距離についても測定精度内で設計値通りとなっている(非点収差の解消)ことを確認し、スペース太陽X線観測用のサブ秒角Wolterミラー表面を創成するための技術的基盤を獲得した。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度までの研磨とX線計測結果(1mm前後の空間スケールでの加工残差がまだ若干大きいこと、および、ミラー有効面の形状で光軸方向に6.5nmのsagずれが存在すること)を受け、今年度は、昨年度に引き続き、課題の解決に向けた精密研磨の加工方法の策定と、それをふまえた研磨の実施に注力した。加工の一段階ごとに形状計測結果の確認と評価を行ない、また、計測結果の信頼性をあわせて確認するなど慎重なアプローチを採って研磨・計測を進めた。この結果、ミラー研磨の加工限界をほぼ見極めることができたとともに、当年度に実施したSPring-8でのX線評価計測により、天体観測に向けたWolterミラーとして、(有効面積の違いはあるが) NASA Chandra衛星をも上回る、世界最高の結像性能を達成したことを確認した。当初計画していた、サブ秒角の空間分解能を持つ天体観測用精密Wolter表面を着実に製作する方法論を獲得し得たことをふまえて、評価を行なった。
今年度の成果をふまえ、以下を研究推進方策とする。(1) 今年度達成した高精度Wolter表面のサイズは、回転放物面部・回転双曲面部とも、光軸方向32.5mm×円環方向10mmである。これは太陽フレアの観測には十分な面積であるが、太陽コロナのより暗い対象まで観測することを念頭に、ミラー有効領域の拡大可能性を検討する。光軸方向へは現有技術で3倍程度まで比較的容易に面積の拡大が期待されるため、急峻な斜面をなす円環方向への面積拡大をテストピースによる試作を通じて検討・評価する。(2) 10 keV程度までのX線反射率を十分に確保するため、試作ミラーに対し従来の白金蒸着に替わりイリジウムのスパッタリング成膜を施し、反射率を評価する。また、経費的・時間的余裕があれば、(3) 保持によるミラーの結像性能劣化の定量的評価と保持手法の具体化検討をあわせて実施する。これにより、スペース太陽X線観測用のサブ秒角ミラー実現に向けた研究を着実に進める。
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第17回宇宙科学シンポジウム講演集
巻: ー ページ: P-171