研究実績の概要 |
本研究では,T2K長基線ニュートリノ振動実験におけるニュートリノ-原子核反応断面積の不定性による系統誤差を削減するために,ニュートリノ反応を測定する既存の前置検出器の拡張として荷電カレント反応の包括的断面積測定に特化した新しい検出器を導入し,原子核の違いによる反応断面積の差を高精度で測定することを目標としている。 本年度は,本研究で製作した2台の新型ニュートリノ検出器(WAGASCI検出器)を既存の検出器と組み合わせた予備的なセットアップでの測定データの解析を進め,ニュートリノ-原子核反応の測定を行った。その最初の結果として,オンアクシスでの荷電カレントニュートリノ反応断面積の測定を行い,水標的とシンチレーター標的での断面積の比を5%の精度で測定し,PTEP誌にて出版した(PTEP 2019, 093C02)。また,反ニュートリノビームでの水標的とシンチレーター標的での断面積比をオフアクシスで測定し,9%の精度で求めた。この結果を国際会議で公表した。 さらに,ミューオンレンジ検出器の製作を完了し,前置ニュートリノ検出器ホール最下層において,WAGASCI検出器とミューオンレンジ検出器を組み合わせた最終的な検出器の配置でニュートリノデータの測定を開始した。異なる場所での測定データを合わせて解析することで,ニュートリノ反応に関するより多くの情報を得る手法の開発を進めた。また,将来のニュートリノ反応測定器に向けた開発として,キューブ型のプラスチックシンチレータと光検出器MPPCを組み合わせた測定器の性能評価を行なった。
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