研究課題/領域番号 |
26247035
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山下 了 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 特任教授 (60272465)
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研究分担者 |
岩下 芳久 京都大学, 化学研究所, 准教授 (00144387)
北口 雅暁 名古屋大学, 現象解析研究センター, 准教授 (90397571)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | CP対称性の破れ / 素粒子 / 超対称性 / 超冷中性子 / 量子ビーム / 中性子光学 / 材料工学 |
研究実績の概要 |
パルス型加速器の特性と中性子輸送光学系を用いた従来にない新しい手法により「世界最高密度の超冷中性子」を生成する日本発の技術基盤が確立されつつある。この手法による最も重要かつ緊急の研究は、世界に先駆けた中性子の電気双極子能率(EDM)の測定である。この測定は超対称性理論を初めとする新しい素粒子理論のモデルを構築する上で大きなインパクトを与える。東海村J-PARC加速器のパルス型ビームを用いれば原理的にはこれまでの感度を2桁以上向上させる可能性をもつ。実験においての本質的課題は(1)系統誤差を制御するための極低エネルギー中性子の輸送・貯蔵用の界面技術の確立(2)加速器に同期する特殊磁場で生成当初の高密度中性子を拡散させず輸送する世界初の中性子収束方式の確立(3)微量磁場の超高精度計測の3点である。本研究は、(1)と(2)についての研究を世界に先駆けて行うことを第一の目標としている。 (1)に関しては、A) 極低エネルギー中性子を輸送するためのガイド管の材質・加工方法の研究をニッケルモリブデン・ダイアモンドコーティングで試作を複数の工程において行い、極低エネルギー中性子の反射率と非鏡面反射成分の実測を行うとともに、反射ポテンシャルを測定することで精度よく見積もることに成功した。重水素化ダイアモンドコーティングでは世界最高レベルの反射ポテンシャルを持つ部材の開発に成功。B) ガイド管の部材と中性子の反射をマイクロラフネスモデルにより作成し、実測と合わせることでモデルの精密化を行った。C) J-PARCのBL05ラインに設置したドップラーシフトを用いた超低エネルギー中性子(UCN)をガイド管により導きJ-PARCにおいて初めてのUCN貯蔵実験に成功した。 (2)に関しては、リバンチャーの装置の磁場特性を拝領し、パルスの加減速をさらに効率的に行える装置にすることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
極低エネルギー中性子(UCN)を侵攻方向速度の分散を抑えつつ輸送するためのガイド菅の部材開発に関しては、世界最高レベルの反射ポテンシャルを持つ重水素化ダイアモンドコーティングの開発に成功し、予想を超えた成果を上げることができている。測定手法においても、中性子の小角度散乱による非鏡面反射成分の実測と、α線とX線を用いた部材の原子核ポテンシャルの測定からの間接的な測定を組み合わせて、UCNの部材によるマイクロラフネス散乱モデルを精密化することに成功したことも予定通りの成果であった。さらに、前年度に開発した中性子の磁場に偏極歳差を正確に再現する新たなGEANT4シミュレーションを駆使して、実験全体での系統誤差の評価に着手することができるようになったことも想定を超えた進展であった。 一方、UCNの蓄積容器の部材を研究するためのJ-PARCでのUCN蓄積実験においては、J-PARC加速器からの中性子生成標的の不具合により、施設での実験が予定から半年以上遅延せざるを得ない状況となり、このため研究計画をこの部分に関して修正し、当初の目標が達せられるようにした。このため、全体として概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
中性子の輸送用の部材の開発は、当初予定を超えて進展しているため、モデルの詳細シミュレーションを用いた実験装置全体の研究を進めることになる。蓄積のための部材の開発は、J-PARCにおける蓄積実験で蓄積用の部材を容器内に挿入し、UCNの反射・吸収率を実測するために、UCNの減少を10秒間隔で測定し、部材ごとの吸収率を求める。リバンチャーでの中性子の収束装置の改良においては、当初予定通り磁場特性を改良するためのキャパシターの増強を行う。中性子計測器のパルス強度依存性を抑えるために、筑波大学のタンデム加速器を用いて実測する研究を行うことで、測定器による不定性を最小化する。実験全体の詳細なフル・シミュレーションをGEANT4により構築し、リバンチャーによる収束、反射・蓄積部材によるUCNの光学特性を数値的に時間的に追尾して、統計誤差・系統誤差を積算することを最終目標とする。
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