研究課題/領域番号 |
26247036
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
旭 耕一郎 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (80114354)
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研究分担者 |
市川 雄一 国立研究開発法人理化学研究所, その他部局等, 研究員 (20532089)
古川 武 首都大学東京, 理工学研究科, 助教 (30435680)
福山 武志 大阪大学, 核物理研究センター, その他 (40167622)
上野 秀樹 国立研究開発法人理化学研究所, その他部局等, その他 (50281118)
吉永 尚孝 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (00192427)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 原子核(実験) / 基本的対称性 / シッフモーメント / 電気双極子モーメント / CP非保存 |
研究実績の概要 |
核シッフモーメントは反磁性原子の永久電気双極子モーメント(EDM)の主要な起源となり、標準模型を超える物理の明確な証左として発見が期待されている。本研究は、129Xeと131Xeを測定対象とし、独自の技術・能動帰還型核スピンメーザーを用いて原子EDMを超高感度で探索する。 本年度は、メーザーの安定発振に必要な高いS/N比を達成すべく、メーザー動作スピンの磁化を与える量、偏極度・分圧積の増大を図った。セル洗浄方法、分圧、温度を変化させ、断熱通過型NMR測定を用いて129,131Xe双方で測定に十分なS/N比が確保できる条件を探索した結果、四重極相互作用を受ける131Xeの偏極緩和にガス間衝突が大きく寄与することが判明、これに基づき緩衝ガスとして新たにヘリウムを導入、129Xe/131Xe分圧比を調整して、磁化および緩和時間の増加を達成した。 またメーザー特性と長期安定度を評価した。運転パラメータを制御してメーザー周波数の応答を調査したところ、2核種メーザー間の位相発展比較によってメーザー周波数の温度への依存性が消滅し、偏極Rbとの接触相互作用の低減が確認された。すでにこの129Xe-131Xe同時メーザー方式で、従来の129Xe-3He同時メーザー方式と同等のμHzオーダーの中心周波数分散(5,000秒平均)が得られており、今後温度・分圧の最適化、帰還磁場生成方式の改良によって更に安定度向上が見込まれる。 理論の面では、シッフモーメントを計算する新たな計算のフレームワークを完成させ、Xeアイソトープの計算を行った。これらの成果は会議で発表し、現在、論文の投稿準備中である。 EDMの観測値と新物理の間をつなぐ議論において、これまで新物理の予言の前提条件が明確に議論されていない。この論点の明確化を理論家と実験家の共同作業で進め、現在論文として投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究により、131Xeの偏極確認、129,131Xe同時メーザー発振等の本計画の最も基本的な要素が達成された。本年度は各要素の完成度を上げ、より詳細な調査を行うことを目標とした。 メーザーセルについては、特に四重極緩和の存在する131Xeの偏極生成・緩和機構について理解が進み、今後のさらなるセル性能向上、さらにはEDM測定に必須な電極付きセル製作時の性能評価手法に対する指針が得られて、十分な進展があったと考えられる。メーザーの長期周波数安定度評価については、メーザーの運転パラメータごとにメーザー周波数に与える影響の定量的評価を行うことができ、本計画の要である同種原子メーザー間の位相発展比較によるRb接触相互作用の低減も確認された。また、測定の途上で、帰還磁場の強度を歳差とは独立に固定することで特に131Xeメーザーの挙動が安定することが見出され、能動帰還型スピンメーザーの特色である人工的な信号処理・帰還磁場生成によってさらなる周波数安定度の向上が見込める可能性が明らかとなった。 以上、四重極相互作用の影響下におけるメーザー発振とスピン3/2系における単一の準位の選択的発振を確認する必要があるものの、総じて、最終年度に行う予定であるEDM測定実験へ向けた基礎的な評価は完了し、おおむね順調な進展があったと結論する。
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今後の研究の推進方策 |
EDM測定のための電極付きEDMセルの開発を行う。セルの全ての面からレーザー光を導入するために、電極の素材はRb D1線に共鳴する795nmのレーザー光を透過しなければならない。そのため、Xeガス、特にセル素材との四重極相互作用による緩和が大きいと考えられる131Xeと種々の透明電極素材(フッ素ドープ酸化スズ、モリブデンメッシュ電極等)間の緩和について調査を行い、電極素材の高温、レーザー光やルビジウムへの耐性も考慮しつつ最適な電極素材を選定する。電極の存在により、最適なガス分圧、表面処理方法やセル形状も変化すると考えられるため、この調査を合わせて行う。 最適化されたEDM測定セルを用いて129,131Xeの同時メーザー発振を行い、四重極相互作用による周波数変動が無視できるm=±1/2間の遷移を信号処理によって抽出し、また、帰還磁場生成・印加方式がメーザー長期安定度に与える影響も調査しつつ、EDM測定セルにおける周波数不定性の評価を行い、現在の129Xe-EDMの実験上限値を超える精度での測定が可能であることを確認する。その後、10kV/cm程度の電場印加下でのEDM測定を実施し、解析・系統誤差の評価を行い、EDM測定の最終結果を目指す。 理論の面では、シッフモーメントの数値計算を130領域以外の原子核領域に拡張する。そのために、新たな対象領域の原子核を適切に再現する有効相互作用の設定、原子核構造の解析を行う。 また、原子核のシッフモーメントに影響を及ぼす核子EDMの理論的評価では、quark の集団運動の記述が不十分で、いまだ標準模型の枠内でさえも理論値に 2-4 桁の曖昧さがある。この問題を Chiral Perturbation Theory と Non-perturbative quark condensate の両面の立場から調べる。
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