研究課題/領域番号 |
26247038
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
花垣 和則 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (40448072)
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研究分担者 |
波場 直之 島根大学, 総合理工学研究科(研究院), 教授 (00293803)
濱口 幸一 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80431899)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ヒッグス / ボトムクォーク / シリコン検出器 / ビームテスト |
研究実績の概要 |
物理データ解析においては,ATLAS実験におけるH→bb探索を主導した。Wを伴って生成されるヒッグスがbbに崩壊する事象を発見すべく,1) トップクォーク対生成,およびQCD事象による背景事象の効果的な抑圧方法と,それらの事象数の評価方法の確立に向けた研究と,2) ボトムクォーク対を起源とするジェット(bジェット)のエネルギー較正手法の研究,これらの2点を重点的に行った。2015年度からLHCは重心系エネルギーを13TeVに増強して運転を開始し,ATLAS実験では3/fb強のデータを収集した。これらのデータを用いて1)および2)を行い,2016年度には13TeVでの結果を出せる目処が立った。 さらに,2012年および2013年に収集した重心系エネルギー8TeVのデータを用いたダークマター探索も行った。ヒッグスを伴いダークマターが生成され,ヒッグスはbbに崩壊する事象を探索した。優位な信号を発見できなかったので生成断面積に対する上限値を求め,その結果を論文として専門誌に投稿した。
検出器開発においては,前年度に行っていたテレスコープと呼ばれるシリコン検出器の整備をさらに進め,より高速度でかつ安定した読み出しを実現できるようになった。テレスコープは,ATLASアップグレード用シリコン検出器プロトタイプのビームテスト等に用いることを想定したもので,評価すべき検出器のどこに粒子が入射したのかを測定するものである。完成したテレスコープを用いたビームテストをFermiabにて実施し,昨年度よりもより詳細にその性能評価を行った。読み出し速度10kHz以上,位置分解能は粒子の入射位置にもよるが2-3μm程度を達成しうることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2015年のLHCは,13TeVにエネルギーを増強したことに加えて,バンチ感覚を50nsから25nsに縮めて運転を行った。そのため,2015年の加速器の第一目標は,より多くのデータ収集というよりも,13TeV・25nsバンチ感覚での安定した運転スキームの確立であった。そのため,当初予定していたよりもデータ収集量は少なくなった。しかしながら,H→bb発見に向けたデータ解析の準備は順調に進み,また,8TeVデータを使ったダークマター探索は当初の予定よりもわずかに早く結果を出すことができた。ATLASグループ内の審査を経て論文投稿まで進めたのは当初の予定以上の進捗である。
アップグレード用シリコン検出器開発の一環として行っているテレスコープ開発は,当初の予定通りにほぼ進んだ。昨年度までに抱えていた最大の問題がデータ読み出しの不安定性であったが,研究協力者の大学院生の活躍により,信号読み出しのためのファームウェアを大幅に書き直しその不安定性をなくすことに成功した。非常にコントロールの難しいASICを完全に制御することに成功したのは大きな収穫であった。また,Fermilabで行ったビームテストは極めて円滑に行えて,様々なデータを十分取得することができた。そのデータを用いた解析により,テレスコープの性能を様々な角度から検証することができ,他のシリコン検出器と組み合わせて運転可能であり,また,その位置分解能からテレスコープとして用いることが可能だと実証できた。この進捗に関してもほぼ当初の計画通りである。
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今後の研究の推進方策 |
物理データ解析は,これまでの研究を受けてその流れでさらにH→bb探索を進める。2016年に予定しているデータ収集りょうが25/fb程度であることから,運が良ければ今年度中にもH→bbを3σ程度の優位さで観測できる。背景事象の評価や,ボトムクォークジェットのエネルギー較正など,この2年間,発見に向けて準備を進めてきたので,その成果を今年度は収穫する年である。 新物理探索としてダークマター探索で成果を得たが,超対称性に関する研究を今のところ行っていない。これは,ヒッグス質量の測定から軽いスクォークの存在可能性が低いためで,今後,スボトムやストップの探索をどのような方針で進めるべきかは,研究分担者の理論家と議論をする必要がある。 ボトムクォークジェットの同定で重要な役割を担うピクセル検出器は,高い放射線環境に晒されていることなどから,その調整,運用が難しい。また,ルミノシティの増加に伴いデータ収集の帯域を広げるべくDAQのアップグレードを行ったばかりで,その性能はまだフルに発揮できていない。そこで,放射線ダメージの詳細なモニタリングや頻繁に較正を行うことなどを通してピクセル検出器の運用に寄与し,収集し物理データ解析に使えるデータ量の最大化に取り組む。 シリコン検出器開発においては,今後は,ピクセルセンサーとASICをバンプボンディングしたモジュールを実装するフレックス回路の開発製造も行っていく。より実機に近いピクセルモジュールを完成させ,その性能評価をこれまで開発してきたテレスコープを用いて行う。フレックス回路をはじめ,ケーブルのコネクター等小さな部品にいたるまで高い放射線耐性が必要になることから,放射線照射試験も実施していく。
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