研究課題/領域番号 |
26247039
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
青木 茂樹 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 教授 (80211689)
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研究分担者 |
中野 敏行 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (50345849)
長縄 直崇 名古屋大学, エコトピア科学研究所, 研究員 (60402434)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 宇宙線(実験) / X線γ線天文学 / 原子核乾板 / エマルション / 宇宙線加速源 |
研究実績の概要 |
2011年6月の北海道大樹町での気球観測で使用したプロトタイプに較べて口径面積を29倍に拡大した中型エマルション望遠鏡を用いて、オーストラリアにおいて24時間規模の観測を行う準備を整えた。 エマルションフィルムいついては、2011年に一部に導入して旧来品よりも高い検出効率を得た高感度乳剤を全面的に使用する事にし、名古屋大学において乳剤製造とフィルム化(塗布)作業を行った。フィルムの性能は、現像後に初めて明らかになるため、製造バッチごとにサンプリング試料を製作し評価するという徹底した品質管理を行った。その結果、現像までの保管環境(湿度・温度)によっては感度の低下や飛跡情報の喪失が発生することが明らかになった。この対策のため、観測直前に湿度や温度を調整してフィルムの密封処理を行う施設を、シドニー大学の協力を得てシドニー大学内に建設した。また、観測・回収後に迅速に現像を行うため、現像施設もシドニー大学の協力を得て設置準備を整えた。 観測中にフィルム相互の位置関係を1ミクロンの精度で保持するためにモジュール全体を真空パックするが、観測を行う上空で保持する圧力が失われないように、観測器全体を与圧容器に入れることにした。物質量を抑えるために、ゴム風船を繊維強化された樹脂シート製のシェルで保持して上空においても0.2気圧程度の圧力を保つ与圧容器を開発し製作した。 2015年の観測の対象であるVelaパルサーは約90ミリ秒の周期を持つが、観測されたガンマ線のパルサー周期に対する位相を分析するため、前回実験で60~150ミリ秒だった時間分解能を10ミリ秒まで改善する必要がある。多段シフターの最下段の駆動速度を上げても確実に動作するようなトルク設計を行うとともに、各段間のギャップを詰めてアライメント精度を上げることで実現した。 オーストラリアでの気球観測は、2015年5月の実施を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
JAXA大気球実験室がオーストラリアにおいて展開する気球観測実験キャンペーンにおいて観測を行うことが認められ、その準備を整えることができている。 今回、Velaパルサーからのガンマ線を補足して高解像度のイメージング、パルサー周期に対する位相分析を行うためには、「研究実績の概要」の項で説明した通り○高感度乳剤を使用したエマルションフィルム、○面積を拡大し駆動速度を速めた多段シフター、○物質量を低く抑えた与圧容器、等々の新しい開発要素が必要となったが、初年度の1年間でこれらを達成することができており、さらにオーストラリア国内にシドニー大学の協力を得て、観測直前にエマルションフィルムに対する前処理を行う施設と観測・回収後に迅速に現像処理を行う施設をシドニー大学内に設営することができることとなり、検出器の能力を最大限に引き出せる環境を整えることができている。 JAXAの大気球委員会において、以上のような準備成果が認められ、JAXAがオーストラリアにおいて立ち上げる気球観測実験キャンペーンの最初の実験として採択されることになった。採択時には2014年11月に実施する計画として採択されたが、JAXA側の事情により2015年5月の実施となった。
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今後の研究の推進方策 |
観測・回収後の現像をシドニー大学において行い、日本に持ち帰りただちに解析を進める。フィルムの飛跡データの読み取りに関しては、名古屋大学において超高速読取システムが立ち上がりつつあり、このシステムにとっての最初の大規模実験への応用となる。収集されたデータの解析は、神戸大学をはじめとするグループ内の各研究機関で行い、エマルション望遠鏡による初めての天体観測を実現する。 既知の高輝度ガンマ線天体の観測を実現して、その解像度を実証したのちには、科学観測の本格的開始に向けての準備を開始する。そのためには観測器の口径面積をさらに1桁拡大するとともに観測時間を拡大する必要がある。時間分解能を保ちつつ観測時間を拡大するため、大面積シフターの開発に着手するが、観測時間拡大のために増加しなければならないシフターの段数を抑えるために各段間のギャップを限りなく0に近づける工夫が必要となる。同時に、大面積化を行っても総重量を抑えるために単位面積あたりの重量を軽量化する必要がある。これらを同時に実現できるようなアイデアはすでに考案・検討中で、そのアイデアに基づく大面積シフターの開発に着手する。
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