研究課題/領域番号 |
26247040
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
東城 順治 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70360592)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 素粒子実験 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、欧州合同原子核研究機構 (CERN) の大型ハドロン衝突型加速器 (LHC) における ATLAS 実験で、素粒子標準模型 (SM) を超える物理 (BSM) の探索、将来計画のための準備研究を遂行し、次世代の素粒子物理学を切り拓くことである。本年度は、来年に重心系エネルギー 13 TeV で実験再稼動を予定しているため、現行検出器の運転・維持・改良、すでに取得したデータの解析、将来計画のための検出器の開発を進めた。 現行検出器の維持・改良では、シリコン半導体飛跡検出器 (SCT) のデータ品質管理手法の再検討、及び、オフラインでの較正手法の改良を行った。データ品質管理で見落としていた項目・条件について改良を行い、検出器効率の向上を行った。また、較正手法の自動制御システムを高度化し、運用を効率化した。これらの維持・改良により、宇宙線を用いた検出器のコミッショニングで、実験再稼動のための準備を万全とした。 ヒッグス粒子の研究では、主にヒッグス粒子が Z 粒子対に崩壊し、それぞれの Z 粒子がレプトン (電子・ミューオン) に崩壊するチャンネルについて、すでに取得したデータの再解析を行った。解析手法を改良し、他の崩壊チャンネルとも組み合わせて最終結果を提出した。さらに、実験再稼動に向けて、解析用データを生成するためのソフトウェア・手法の改良を行った。BSM の探索では、すでに取得したデータを用いて、陽子衝突点から優位な距離をもって崩壊する長寿命の超対称性粒子の探索を行った。崩壊点を再構成するソフトウェアを改良して、その再構成効率を向上させ、探索の解析結果を提出した。 将来計画に向けた検出器の開発では、シリコンピクセル検出器の開発を行った。試作機を製作し、その試験を行った。課題は残されているものの、次年度に向けた活動を具体化するための材料を得ることが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究計画のうち、現行検出器の運転・維持・改良、ヒッグス粒子の性質の測定、BSM 物理の探索は、順調に進めることが出来たが、将来計画に向けた検出器の開発ではやや遅れを取る結果となった。その主な理由は、シリコンピクセル検出器の重要な構成要素である読み出しチップの入手が困難だったことと、それに伴って、読み出しチップの仕様に適合するフレキシブル基板を設計・製作することが難しかったことである。将来計画に用いる読み出しチップは、ATLAS 実験の国際共同研究下において、専門家による設計と製作が進んでいる一方、数量に限りがあるため、入手することが困難であった。また、既存の読み出しチップの生産プロセスが将来的に変更されることが国際共同研究下で決定され、現行のチップも大幅に変更されることとなった。このような状況のため、検出器の開発はやや遅れることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、重心系エネルギー 13 TeV で実験を再稼動させる予定である。現行検出器の運転・維持、データ取得、対応するソフトウェア開発とデータ解析、将来計画に向けた検出器開発を進める。 現行検出器のうち特に SCT での活動では、再立ち上げ・運転・維持・較正を行い、最高品質のデータを取得することが重要である。本年度に準備したデータ品質管理と較正手法の改良により、スムーズな運転を行い、データ収集を行う。 新たに取得するデータの解析では、7 - 8 TeV で取得した既存データと比較して、重心系エネルギーが増大することにより、ヒッグス粒子の性質の測定・長寿命超対称性粒子の探索では、その物理測定感度が変わる。モンテカルロ・シミュレーションを用いた研究を並行して進めつつ、測定・発見に向けたデータの解析を遂行する。 将来計画のための検出器の開発では、引き続きシリコンピクセル検出器の開発を進める。特に、本年度にやや遅れたフレキシブル基板の設計・製作を進め、読み出しチップの最新版について、検出器試作機を製作し、その性能評価を行う。
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