研究課題/領域番号 |
26247042
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
小玉 英雄 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (40161947)
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研究分担者 |
高橋 史宜 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60503878)
中山 和則 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90596652)
檜垣 徹太郎 慶應義塾大学, 理工学部, 講師 (10629059)
郡 和範 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (50565819)
井岡 邦仁 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (80402759)
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研究期間 (年度) |
2014-06-27 – 2018-03-31
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キーワード | 超弦理論 / コンパクト化 / アクシオン / インフレーション / ダークマター / ブラックホール / 重力波 |
研究実績の概要 |
1)ブラックホール・アクシオン系:4重極モードでは,成長したアクシオン雲は明確なボーズノバを起こさず周期的な質量放出をくり返すこと,モードの混在は小さな振幅でもボーズノバの振る舞いに大きく影響すること,ボーズノバからのバースト重力波の振幅は連続波の一万倍に達すると推定されることを示した.[吉野・小玉] 2)高エネルギー天体:銀河中心からのGeV放射超過の起源がパルサーかダークマターかをスペクトル観測により判定できることを指摘.[井岡] 3)隠れたセクターの宇宙論:インフラトン振動期における重力的粒子生成の効果の新たな評価法を開発し,拡張重力理論において隠れたセクターの粒子・輻射の宇宙論的影響を評価.[中山] f(R)理論において超微小質量のアクシオンダークマターの存在がパルサータイミングで検出可能であることを指摘.[早田] 隠れたセクターにモノポールが存在すると,Witten効果によりQCDアクシオンの存在量と等曲率揺らぎが抑制され,モノポールが主な暗黒物質となりうることを示した.[高橋] LHC実験における2光子崩壊事象と暗黒物質を複数アクシオンにより同時に説明するシナリオを提示.[檜垣・高橋] 21cm線観測とCMB偏光観測を組み合わせることにより,未知の宇宙背景放射に対し等価ニュートリノ世代数<0.06という制限が得られることを示した.[郡] 4)超弦理論に基づく統合的宇宙模型:超弦理論の枠内でアクシオンインフレーション模型が可能であることを具体的に示した.[小林] D項によるレーストラック構造を用いたインフレーション模型が,超弦理論Calabi-Yauコンパクト化の枠内で高い実現可能性を持つことを示した.[住友] 極大超重力理論におけるde Sitter真空の非コンパクトな余剰次元をもつM理論への持ち上げは,質量スペクトルの観点からは不安定であることを示した.[小玉]
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の申請書に記載した計画・目標の多くは達成した.さらに,ブラックホール・アクシオン系において,モード混合が大きな影響を持つこと,異なるモードではアクシオン非線形相互作用の影響が大きく異なり,ボーズノバや周期的アクシオン放出現象など多様な現象を引き起こすことなど新たな興味深い発見があった.また,Witten効果に着目することにより隠れたセクターのモノポール,QCDアクシオン,ダークマターを結びつけた研究成果は非常に興味深く、隠れたセクターと超弦理論コンパクト化を結びつける上で今後重要になると期待される.さらに,LHC実験で予期しない2光子崩壊事象が検知された可能性が高まり,本研究の中心テーマであるアクシオンなどの隠れたセクターの重要性が一挙に注目されるようになった.本研究メンバーもこの問題について多くの研究を発表した. 一方で,高エネルギー天体現象による隠れたセクターの探査というテーマに関する研究にはかなりの遅れが見られる.原因のひとつは,高エネルギーガンマ線天体の観測されたスペクトルが赤外線背景輻射の強度と矛盾しないかという観点からアクシオンについての情報を得る研究において,赤外線背景放射についてのCIBER実験の結果の公表が遅れていることが上げられる.この問題は近日中に解消される. もう一つの問題は,宇宙観測から超弦理論コンパクト化について具体的な制限を得る研究の進展が少し遅いことである.一つの大きな障害は,インフレーション模型に対して強い制限を与える,ゆらぎのテンソルスカラ比や非ガウス性についての十分な実験的情報がまだ得られていないことにある.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進における力点は,現状で遅れの目立つ研究をより強力に推進することと,この1年間で生じた研究を取り巻く状況の変化に応じて新たな課題を積極的に取り上げ挑戦することにある. まず,前者については,ブラックホール・アクシオン系の研究において,Kerrブラックホール背景でのボーズノバからの重力波を計算するコードを完成させることが急務である.また,ブラックホール降着円盤系でのブラックホール角運動量変化の具体的評価を行うことも喫緊の課題である.これらの課題は,後ほど述べる重力波天文学の急速な発展と密接に関連する. 宇宙観測から超弦理論コンパクト化について具体的な制限を得る研究の進展が少し遅いことに対する方策としては,観測からの有意な情報が得られるのは数年先と予想されるので,当面は,素粒子標準模型とこれまでの宇宙観測情報の双方と整合的な超弦理論コンパクト化をより組織的に探査する方向で研究を進める.これまで注目されてこなかったコンパクト化についても分析を進める. 次に、後者の新たな課題を考える上で注目すべきは,やはり最近のLIGOチームによるブラックホール合体からの重力波の検出である.この検出の意義は多様であるが,最も重要な点は,重力波により現実に宇宙を探れることが示されたことである.本研究計画でも,この点を重視し,重力波をプローブとして究極理論を探るというアプローチをより積極的に推進する.アクシオンヘヤーを持ったブラックホールと他の天体や周辺物質との相互作用が引き起こす現象の研究もその一つである.この問題も含めて,より多様な観点・アイデアを取り入れるために,今年度後半に,実験による隠れたセクター探査をテーマとした国際研究会を開催する.
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