研究課題/領域番号 |
26247046
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
下村 浩一郎 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 准教授 (60242103)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ミュオン / 超微細構造 / 質量 / g-2 |
研究実績の概要 |
水素原子の陽子を正ミュオンで置き換えた原子であるミュオニウムは図1に示すように水素原子と非常によく似たスペクトルをもつが、水素原子と異なりハドロンの大きさや内部構造を考慮する必要がない。ミュオンの寿命が 2.2マイクロ秒と比較的長いこともあって、その精密な分光はQEDの精密検証等に最適な候補となる。 本研究では、最も単純な2体束縛系であるミュオニウムの高磁場下でのゼーマン副準位を高精度で測定することで、ミュオニムの超微細構造定数および、次世代のミュオンg-2測定に必須のミュオンの磁気モーメントと陽子の磁気モーメント比を約一ケタ高い精度で決定する。この結果を利用してQEDの精密検証をおこない従来実験的には明らかでなかった、超微細構造定数に対しての強い相互作用(~230Hz)および弱い相互作用(~65Hz)からの寄与を確認することが可能となる。合わせてローレンツ対称性の破れの探索を行う。 統計量の取得のためには、J-PARCミュオン科学研究施設で取り出される世界最高強度のパルス状ミュオンを用いる。系統誤差の低減のため、MRI用高精度超伝導電磁石を用意しその磁場一様度を0.1ppm以下にするためのシミング手法の開発および精密磁場測定装置の開発を行う。また高セグメント化された崩壊陽電子検出器およびミュオンビームプロファイルモニターを製作し、さらに高安定化マイクロ波印加システムを開発することにより上記目標を達成する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験に要求される均一磁場(30cmx20cmx20cm内で0.1ppm以下)を達成するためには、それ以上の精度で測定できる磁場測定装置が必要であり、その開発を行ってきた。ppmオーダーの磁場測定精度を実現できるのはNMRを用いた測定装置以外にありえず、本実験では、市販のContinuousWave型NMR測定装置をベースとして開発を行っている。本装置の基本原理は、NMR試料に周波数一定の高周波を印加、磁場変調コイルを用いて試料にかかる磁場を微少に変化させながら、NMR共鳴が起きる点を探すものである。市販の装置においては、NMR共鳴が起きる点、すなわちNMR信号のピーク点を、アナログ回路を用いて算出している。この方法では、測定は非常に簡便になるが、精度という点においては、1ppm以下を達成することが困難である。この問題点を改善するため、ピーク点検出をデジタル処理で行う装置を開発した。さらに、その求めたピーク値を元に、入力RFの周波数を変更し、磁場変調コイルの発生磁場がゼロとなる点で共鳴が起きる様に周波数を調整する。完成した装置の試験を、放射線医学総合研究所(NIRS)所有の医療用3T MRI装置を借りて行った。結果0.014ppmの精度を達成した。 また高統計の実現のためには、陽電子検出器の高い計数率耐性と高磁場中での安定動作が不可欠である。このため、本研究ではピクセル状にセグメント化したプラスチックシンチレータとMPPCとを用いて検出器を構成する。試作機を開発し,J-PARC MLF MUSE D2ビームラインにおいてビーム試験を行った。
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今後の研究の推進方策 |
上に詳述したように、本研究のR&Dは非常に順調に進行してり、平成26年度中には概ね終了する。この結果をもとに、平成27年度中に陽電子検出器・FBPMの実機製作を行い、ビーム実験開始にこぎつけたい。 陽電子測定器については、試作機の試験およびシミュレーションの結果から最終的な検出器の仕様が決定しつつある。同時に、検出器に由来する系統誤差の評価が進んでいる。300 mm×300 mmの有感領域を900分割した検出器を二層用いることで高統計とパイルアップ損失の低減を両立し、実験の目標とする統計精度を達成可能である見込みが得られている。読み出し回路のASICおよびFPGAは既に実験に利用可能なものが完成しており、さらなる性能向上に向けた検討が進んでいる。データ収集ソフトウェアも基礎的な環境は既に整備されており、最終的な実験に向けたアップグレードを行っている。 フロント・ビームプロファイルモニタ(FBPM)については、試作機の試験およびシミュレーションの結果から最終的な検出器の仕様がほぼ決定済みである。2015年の早い段階に実機の制作を開始し、MLFにてビームを用いた最終試験を行ったのち実験に用いる。 キャビティおよび、RFをシステム系については共鳴時の周波数及びRF磁場分布について実測及び計算に基づいて既に理解ができている。RFシステム系は大まかな全体構成は決定しておりそれに基づいて平成27年度前半に製作及び数WでのRF印加テストを行う。また、RFパワー安定精度を不確かさ0.1 %以内で実現をするため、フィードバックシステムのテスト及び調整を進めていく。その上で温度管理が同時に必要になってくるため、キャビティ側面に複数の白金抵抗温度計を設置、ガス圧やRFパワーとともに定期的にデータ収拾を行うロガーをLabviewによって作成し、常時モニター出来る環境を構築し本格的測定に向けて準備を行う。
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