本研究では、最も単純な2体束縛系であるミュオニウムの様々な磁場下でのゼーマン副準位を高精度で測定することで、ミュオニウムの超微細構造定数および、次世代のミュオンg-2測定に必須のミュオンの磁気モーメント(あるいはミュオンの質量)を約一ケタ高い精度で決定することを目的としている。この結果を利用して標準理論(主に束縛系QED)の精密検証をおこない、合わせて、様々な実験・理論モデルとの突合せをおこなうことでミュオニック水素のラムシフトの異常を説明するために提唱された新粒子の探索、あるいはローレンツ対称性の破れの探索などを行う。Liu らによる先行研究においては、一様な強磁場中に設置したガスチェンバー中にミュオンを照射しミュオニウムを作り、マイクロ波共鳴によって、ゼーマン副準位間の2つの共鳴周波数を測定した。このさい磁場を1.7Tに設定することにより、1つの円筒キャビティを用いて2つの共鳴周波数に対応する手法を用いて系統誤差の逓減を図った。本研究においても、まずは先行研究と同様の円筒キャビティを用いて測定を行うことを目指して開発を続けてきた。一方、現在本実験を行うためのミュオンビームライン(Hライン)は建設中であり、早期に物理結果を出すことと、様々な開発要素の実証試験のため、ゼロ磁場における測定環境の整備も合わせて行ってきており、2016年度には、世界で初となるパルスミュオンを用いた、ミュオニウムの共鳴測定に成功した。
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