研究課題/領域番号 |
26247051
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
藤澤 利正 東京工業大学, 理学院, 教授 (20212186)
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研究分担者 |
都倉 康弘 筑波大学, 数理物質系, 教授 (20393788)
橋坂 昌幸 東京工業大学, 理学院, 助教 (80550649)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | メゾスコピック系 / 量子ホール効果 |
研究実績の概要 |
本課題「量子ホールエッジチャネルの非平衡電荷ダイナミクス」では、強磁場中の半導体二次元電子系のエッジチャネルにおける電荷・無電荷輸送など顕著な量子多体現象の観測により、人工的な低次元構造中における非平衡電荷状態の動的制御方法を確立することを目的としている。低周波電流雑音測定、時間分解・周波数分解の超高周波輸送現象、エネルギー分光測定、それらの理論解析によって、整数及び分数量子ホール領域における、【1】人工的構造を用いた朝永ラッティンジャー流体の挙動(スピン電荷分離など)の観測、【2】電荷を伴わない無電荷熱輸送の検出と解明、【3】エッジチャネルと他自由度との相互作用に関する理論研究を進めて、プラズモン集積回路や量子情報伝達チャネルとしての可能性を探索している。 今期は、量子ホールエッジチャネルにおける朝永ラッティンジャー流体に着目した実験と、エッジチャネルと量子ドットが結合した系に時間的な摂動がかかった場合の理論研究を中心に研究を進めた。特に、時間分解測定技術を用いて朝永ラッティンジャー流体のスピン電荷分離現象の観測に成功した。また、熱輸送の観点では、対向したエッジチャネル間が結合した系で、双方向熱平衡状態に達しない長寿命の非平衡状態を示す実験が得られ、2つの温度成分を示す電子が共存するという非自明なエネルギー分布を観測した。さらに、エッジチャンネルがもたらす時間的な摂動がそれと結合した量子ドットの伝導にどのような影響を与えるかについて理論的な解析を加え、断熱的変動の場合に現れる幾何学的効果による輸送を明らかにした。その他、電流ゆらぎ相関測定技術を用いる新しい分光測定手法を開発や、光伝導スイッチを利用した新しい励起手法の開拓に関する研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
[1]量子ホールエッジチャネルの低エネルギー励起は朝永ラッティンジャー流体によって説明でき、相互作用しないプラズモンとして記述できることから、熱平衡状態に達しない長寿命の非平衡状態を示すことが期待されている。本研究では、占有率2(スピンアップとダウン)のカイラルエッジを対向した配置による間接的励起手法を採用することで、特徴的な長寿命非平衡状態の生成に成功した。量子ドットを用いたエネルギー分光により、2つの温度成分を示す電子が共存するという非自明なエネルギー分布が生じることを示した。 [2]時間分解の輸送現象測定技術を用い、整数量子ホールエッジチャネルにおいて朝永ラッティンジャー流体特有のスピン電荷分離現象を観察することに成功した。これは、空間的に分離されたスピンと電荷の波束を直接検出した初めての実験であり、当該分野においてインパクトの大きい重要な成果である。 [3]整数エッジチャネルにおける電子のエネルギースペクトル評価のために、電流ゆらぎ相関測定技術を用いる新しい分光測定手法を開発した。これは、エッジチャネルにおけるエネルギー緩和現象の解明にとって重要な実験手法になると考えている。 [4]エッジチャンネルがもたらす時間的な摂動がそれと結合した量子ドットの伝導にどのような影響を与えるかについて理論的な解析を加えた。特に断熱的変動の場合に現れる幾何学的効果による輸送を明らかにした。また時間的変動が量子ドットに局在したフォノンの分布に与える影響を調べた。また従来その起源が不明であったエッジチャネルの固有減衰レートを古典的な解析ではあるが、エッジ電流が作る局所磁場の効果を取り入れることにより初めて理論的な解析を加えた。
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今後の研究の推進方策 |
[1]量子ホールエッジチャネルに現れる朝永ラッティンジャー流体特有の長寿命非平衡状態について、解析が単純となる並走チャネル間相互作用に注目して研究を行う。その緩和距離などを調べることによりモデルとの対応を調べる。一次元電子系と他の自由度(フォノン、核スピン)との結合を調べることにより、朝永ラッティンジャーモデルの有効性やプラズモン寿命に関する知見を得る。 [2]昨年度末に達成したスピン電荷分離現象の実験的検出のデータを詳しく解析し、エッジチャネルの朝永ラッティンジャー流体としてのパラメータ(相互作用強度など)を評価する。この取り組みによって、電荷・スピン密度波の伝搬特性を利用した、新しい機能性エレクトロニクス素子の可能性を模索する。さらに、本実験手法を分数量子ホールエッジチャネルに適用し、分数量子ホール領域における無電荷熱輸送の検出にも挑戦する。 [3]エアブリッジ型ゲート電極を有する量子アンチドットの作製技術を確立し、アンチドット素子の実現を目指す。また、微小なトンネル電流の測定を可能にするコルビノ型電極を採用した構造を設計・作製する。 [4]昨年度解析を加えたエッジチャネルの減衰レートの解析を拡張して、量子的な解析を加えて行く。特に非平衡朝永ラッティンジャー流体固有の緩和プロセスについて先行研究の調査と共に解析を進め、実験結果との比較検討を加える。またエッジチャネルと結合した量子ドット系の時間発展、特に遠隔量子ドット間に量子情報を伝達させる可能性について検討を開始する。
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