本課題「量子ホールエッジチャネルの非平衡電荷ダイナミクス」では、強磁場中の半導体二次元電子系のエッジチャネルにおける電荷・無電荷輸送など顕著な量子多体現象の観測により、人工的な低次元構造中における非平衡電荷状態の動的制御方法を確立することを目的としている。低周波電流雑音測定、時間分解・周波数分解の超高周波輸送現象、エネルギー分光測定、それらの理論解析によって、整数及び分数量子ホール領域における、【1】人工的構造を用いた朝永ラッティンジャー流体の挙動(スピン電荷分離など)の観測、【2】電荷を伴わない無電荷熱輸送の検出と解明、【3】エッジチャネルと他自由度との相互作用に関する理論研究を進めて、プラズモン集積回路や量子情報伝達チャネルとしての可能性を探索している。 これまでの研究で培った朝永ラッティンジャー流体の非平衡状態についてレビュー論文を発表し、非線形領域やスピン軌道相互作用を含む場合などの発展的な研究を進めた。特に、従来の低エネルギー励起(約100μeV以下)よりも1000倍以上高いエネルギー領域(約100meV)までの電子状態を解析する手法を開拓し、ホットエレクトロンの伝搬についての研究を行った。さらに、整数・分数量子ホール系での電子状態について、新しい素子構造(入れ子型ホールバー)を考案し、分数エッジ特有の輸送現象を明らかにした。他自由度との相互作用に関して、表面弾性波フォノンの共振器による電子フォノン結合の増強、2フォノン過程の理論に関する研究を進めた。 これらの研究から、量子ホールエッジチャネルの非平衡電荷ダイナミクス、電荷輸送・無電荷輸送などの量子多体現象を明らかにするとともに、非平衡電荷状態の動的制御方法により一次元回路・量子情報伝達チャネルへの可能性を示した。
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