研究課題/領域番号 |
26247052
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 耕一郎 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90212034)
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研究分担者 |
廣理 英基 京都大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (00512469)
谷 峻太郎 東京大学, 物性研究所, 助教 (80711572)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | テラヘルツ非線形光学 / テラヘルツ分光 / 非線形光学 / 半導体光学 / 超高速レーザー分光 |
研究実績の概要 |
本研究においては、高強度テラヘルツ電磁場下に半導体などの固体材料をおき、物質中電子を大振幅に駆動することによって、固体電子状態を瞬時に変化させる。これにより、バンド構造やその次元性、電気伝導特性、光学特性などの物性を劇的に変容させることを目指す。初年度の主要な成果は以下の2項目である。 ①空気プラズマをもちいた高強度テラヘルツ光源の最適化 テラヘルツパルス光源の高強度化を図るため、空気プラズマテラヘルツ発生法の条件の最適化を行った。この結果、光Kerr測定をもちいた時間領域での測定により空気プラズマ法により20 THz以上の高周波領域において150 kV/cm以上の電場強度を持つテラヘルツパルスの発生を確認するとともに、励起光としてもちいる基本波と2倍波の相対偏光関係によりテラヘルツパルスの偏光状態が制御可能であることを見いだした。また、既存の結晶に比べて大きな非線型感受率をもつと期待される熱処理DAST結晶をもちいてテラヘルツパルス光発生の実験をおこない、3-4 THzに中心周波数をもつテラヘルツ光の発生に成功した。 ②波長可変狭帯域高出力テラヘルツ光源の開発と半導体の非線形分光 高強度フェムト秒パルスレーザーのパルス整形技術とパルス波面傾斜技術をもちいたLiNbO3結晶による高強度テラヘルツ光発生と組み合わせることにより、0.5 THz から2.0 THzの間で波長可変であり、50GHz 以下の線幅と、10 kV/cm以上の最大電場強度を有する光源の構築に成功した。この光源を用いて、GaAs量子井戸中の励起子準位の非線形応答を観測した。テラヘルツ光を励起子の1s-2p遷移に共鳴させることで、励起子吸収のラビ分裂を観測した。また、さらにテラヘルツ光の強度をあげることにより、励起子吸収のブルーシフトが観測された。これらを説明する物理メカニズムを考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初に計画したとおり、高強度テラヘルツ光源開拓と既存の技術をもちいた半導体のテラヘルツ領域の非線形光学現象の研究が順調に進展している。しかし、結晶育成に関しては、当初の目論見通りには進まなかった。単一の温度制御された管状炉をもちいて薄膜作成を行ったが、MoS2単層薄膜結晶作成に最適な温度・圧力設定を見いだすことができなかった。この点に関しては、結晶育成にもちいる管状炉を改良し、2つのゾーンを独立に温度制御可能なシステムに変更を加えることで対処する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、広帯域の高強度テラヘルツ光源を開発すると共に、物性測定にもちいる層状結晶試料の作製を進める。また、現有の高強度テラヘルツ光源をもちいた半導体のテラヘルツ非線形分光の実験および理論研究も進める。具体的には以下のようにすすめる。 (1)高強度テラヘルツ光源の開発に関しては、空気プラズマをもちいた高強度テラヘルツ光発生・測定システムを完成させる。昨年度課題であったテラヘルツ光の空間モードの悪さを改良するために、レーザー光の空間モードおよび基本波と2倍波の偏光と位相の最適化をおこなう。また、有機非線形結晶であるDASTによるテラヘルツ光発生の検討も進め、2つの方法の比較をおこなう。この光源と空気をベースとした電場計測システム(ABCDシステム)を組み合わせることで、高強度テラヘルツ電磁場を照射下での物性計測を開始する。 (2)層状結晶試料の作製に関しては、MoS2単層薄膜結晶作成に最適な温度・圧力設定を見いだすために、2つのゾーンを独立に制御可能な管状炉による成長を試み、最適な成長条件を見いだす。 (3)半導体のテラヘルツ非線形分光に関しては、現有の高強度テラヘルツ光源をもちいて、高品質のGaAs薄膜における励起子の非線形分光実験を継続する。電場計測を精密化することでトンネルイオン化に関する定量評価をおこなう。また、テラヘルツ光をもちいた半導体の非線形光学現象を記述する理論を構築する。
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