研究課題
本研究においては、高強度テラヘルツ電磁場下に半導体などの固体材料をおき、物質中の電子を大振幅に駆動することによって、固体電子状態を瞬時に変化させる。これにより、バンド構造やその次元性、電気伝導特性、光学特性などの物性を劇的に変容させることを目指す。H27年度の主要な成果は以下の3項目である。①高強度テラヘルツ光源の最適化:テラヘルツパルス光源の高強度・短パルス化を図るため、物性研究所の赤外超短パルス光源を励起光源として、DAST結晶を用いたテラヘルツ分光システムを構築した。これにより、中心周波数5THzでピーク電場値1.4MV/cmの超短テラヘルツパルス光発生に成功した。②単層半導体の光物性:単層半導体MoS2の共鳴ラマン散乱の系統的な実験を行い、共鳴条件下で偏光選択則が大きく変わることを明らかにした。この共鳴2次光学過程が直線偏光励起下で発光の偏光が励起光の偏光状態を保持する現象(ヴァレイコヒーレンス)と密接な関係があることを指摘し、論文にまとめた。③半導体のテラヘルツ非線形分光:パルス波面傾斜技術をもちいたLiNbO3結晶による高強度テラヘルツ光発生とバンドパスフィルターを用いて数サイクル以上のパルス幅と60 kV/cm以上の最大電場強度のテラヘルツ光を発生させた。GaAs量子井戸中の励起子の1s-2p遷移には非共鳴な励起条件下で、過渡的なバンド間遷移近傍の吸収変化を詳細に調べた。これにより、テラヘルツ光のサブサイクル内で大きな変化が生じることを明らかにした。励起子のドレスド状態形成により、このことが理解できることを示した。また、半導体における高強度テラヘルツ光を用いた高次高調波発生関する理論の構築を行い、簡単なバンド構造の場合の高次高調波発生には大きく分けて3つの強度領域が存在し、特異な楕円偏光依存性を有することを明らかにした。これらの成果を論文にまとめた。
1: 当初の計画以上に進展している
赤外超短パルス光源を励起光源とDAST結晶を用いたテラヘルツ光発生において中心周波数20THz以上を有する超短テラヘルツパルス光発生に成功、単層半導体の共鳴2次光学過程の解明、テラヘルツ光による励起子ドレスド状態の生成とサブサイクル応答の解明に成功、半導体における高次高調波発生の理論の構築など、予定を上回る多くの成果が得られ、本研究の目的に向かって大きな前進があった。
広帯域の高強度テラヘルツ光源の改良を行うとともに、それを用いた新規物性探索実験を行う。また、現有の高強度テラヘルツ光源をもちいた半導体のテラヘルツ非線形分光の実験および理論研究も進める。具体的には以下のようにすすめる。(1)高強度テラヘルツ光源の開発:有機非線形結晶であるDASTによるテラヘルツ光発生システムを完成させ、それを用いた分光実験を進める。特に、高強度テラヘルツ電磁場照射下での物性計測を重視する。幾つかの強相関電子系材料に対して実験を行い、高強度テラヘルツ電磁場下で現れる新秩序や新しい物性の探索を進める。(2)層状結晶試料の高速過渡現象の研究:MoS2やWSe2の単層試料に対して、共鳴2次光学過程の詳細な研究を行い、光励起状態のダイナミクスを明らかにする。この情報をもとに、テラヘルツ~中赤外光励起下でのダイナミクスを明らかにする。(3)半導体のテラヘルツ非線形分光:現有の高強度テラヘルツ光源をもちいて、高品質のGaAs薄膜における励起子の非線形分光実験を継続する。特にドレスド状態におけるサブサイクル応答を明らかにする。また、テラヘルツ光をもちいた半導体の非線形光学現象を記述する理論を発展させ、テラヘルツ光と可視光の2色励起における非線形光学現象を考察する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 3件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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