研究課題/領域番号 |
26247059
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
後藤 輝孝 新潟大学, 自然科学系, フェロー (60134053)
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研究分担者 |
根本 祐一 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (10303174)
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研究期間 (年度) |
2014-06-27 – 2017-03-31
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キーワード | 原子空孔 / シリコン / 表面超音波 / 電気四極子 / 櫛状電極 / ソフト化 |
研究実績の概要 |
半導体産業でITデバイス製造に使用されるボロン添加シリコンウェーハに存在する原子空孔軌道の量子状態の解明は,基礎物理を産業技術に発展させる重要課題である。原子空孔に束縛された電子軌道は周囲に大きく広がっているため,巨大な電気四極子をもち,極めて大きな四極子-歪み相互作用を示すので,100億個のSi原子に1個の極僅かな濃度で存在する原子空孔を,超音波による弾性定数の低温ソフト化の計測により観測できる。本研究では、櫛状超音波素子により表面超音波を励起し,ウェーハ表層を伝搬するレイリー波の弾性定数Csの低温ソフト化とその印加磁場依存性,さらに応力印加による歪み依存性を観測し,原子空孔軌道の量子状態および四極子感受率の研究を進める。さらに、半導体デバイスの基盤材料であるシリコンウェーハ表層の原子空孔濃度を評価する全く新しい半導体技術の創成に寄与する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
対向させた櫛状超音波素子の間の伝搬速度vから表面超音波の弾性定数Cs =ρv2を決定する。幅2.5μmのAl細線,分離ギャップw=2.5μm,ZnO薄膜2μmでの櫛状超音波素子をシリコンウェーハ(001) 表面に作製し、周波数fs=517MHz,波長λ=9.37μmでの表面超音波を励起した。[100]方向に対向させた櫛状超音波素子で受信したパルス表面超音波の音速vs= d/ts = 4.967km/sは,表面弾性波の理論計算から予想されるレイリー波の音速4.88km/sと良い一致が得られている。また、新潟大学に設置している希釈冷凍機と超伝導磁石を用い、表面超音波の弾性定数Csの低温ソフト化とその磁場依存性の測定を行い、侵入長3.5μmの表層に存在する原子空孔軌道の量子状態の四極子感受率による解明も進んだ。 半導体デバイスは、シリコンウェーハの表層を活性領域として用いているので、よりウェーハ表面に近い表層の原子空孔の観測が要請されており、本研究では高周波の櫛状超音波素子を製作する。その際、これまでのAl細線を用いて製作した櫛状超音波素子には、測定には無用な超伝導転移がみられるので,極低温でも常伝導であるCu細線を用いる。分離ギャップw=0.25μm, 幅0.25μmCu細線,ZnO薄膜0.2μmでの櫛状超音波素子をシリコンウェーハ(001) 表面に作製し,周波数fs= 5GHz,波長λ =4w=1μm, 侵入長λ =0.3μmでの櫛状超音波素子をフォトリソグラフィ技術で製作する。新潟大学既設の希釈冷凍機では、8本の同軸ケーブルが挿入されており、4個の試料での測定が可能であるが、これまで個別測定にとどまっていた。本研究では、簡便迅速な並列測定を進めるために、電気機械式同軸スイッチを用いた計測システムの開発を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
シリコン中の原子空孔軌道は、極めて巨大な四極子―歪み相互作用gΓ5=2.8x105Kを持っている。このため僅かな歪みで、原子空孔軌道の四重項基底は二つのクラマース2重項に分裂し、低温での弾性定数のソフト化は1/Tに比例するキューリー則から外れ、さらに低温での磁場依存性に特有の極小が表れる。これまでの予備的実験では、歪みによる原子空孔軌道の分裂が想定できる結果も見られている。そこで、本研究では、厚み0.77mmのシリコンウェーハ試料を僅かに屈曲させることで歪みを加え、四重項基底を2本のクラマース2重項へ分裂させる。歪みを加えた条件で、低温ソフト化とその磁場依存性を詳しく観測し、四重項基底が歪みでどのように分裂するかを解明し、原子空孔軌道の巨大な四極子―歪み相互作用の大きさを正確に決める。 FZインゴットおよびCZインゴットを用いた系統的な超音波実験によると、シリコンウェーハをインゴットから切り出す場所によって含まれる原子空孔の濃度は変化し、さらに同じウェーハ内でも中心からの距離に依存して原子空孔濃度が大きく変化している。さらに、ウェーハ育成や熱処理などの条件により、表面から内部に向かい原子空孔濃度が変化していると推測されている。本研究は、表面超音波による原子空孔軌道の量子状態の解明に目的があるが、半導体産業からの要望にも是非とも応えたい。現在用いられているニュートラル、エピ、アニールウェーハなど多様な300mmボロン添加CZシリコンウェーハの表層の原子空孔の研究も行う。シリコンウェーハは,人類が手にした最も純粋で完全な結晶であり,大学実験室では育成不可能であり、ウェーハメーカーの協力のもとで、最先端シリコンウェーハの提供を受ける。超音波による基礎研究の成果を、半導体技術への産業応用に発展させる契機を作りたい。
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