研究課題/領域番号 |
26247063
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
前川 禎通 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター, センター長 (60005973)
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研究分担者 |
安立 裕人 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター, 研究副主幹 (10397903)
家田 淳一 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター, 研究副主幹 (20463797)
中堂 博之 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター, 研究副主幹 (30455282)
小野 正雄 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター, 研究副主幹 (50370375)
松尾 衛 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター, 任期付研究員 (80581090)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | スピンベリー位相 |
研究実績の概要 |
核スピン系を研究対象に物体の回転運動によって生じるベリー位相について核磁気共鳴法(NMR)を主要な実験手法として研究を遂行した。コイル回転NMR法では外部磁場と回転軸が平行の場合には回転由来の有効磁場(バーネット磁場)によって共鳴線はシフトする。ところが平行ではない場合には共鳴線は分裂することを見いだした(K. Harii et al., Japanese Journal of Applied Physics 2015)。これはベリー位相の蓄積とバーネット磁場による協力現象であり、ベリー位相の定式ではバーネット効果は動的位相に対応することを突き止めた。 核四重極共鳴法(NQR)においても回転に伴って共鳴線が分裂することを見いだした。また、常磁性状態においても回転に伴って物体は磁化する(バーネット効果)ことをはじめて実証した(M. Ono et al., Phys, Rev, B 2015)。 理論面では、スピン起電力の出力増大を目的として、対象物質をこれまでの強磁性体からより高速・高エネルギー励起が期待される反強磁性体に拡張する試みに着手した。このために、分担者の家田を反強磁性体研究が盛んなドイツのマインツ大学に派遣し、同大学のJ. Sinova教授と国際共同研究を開始した。本研究内容は一部すでに論文投稿済みであり、研究期間内の論文公表が見込まれる。また、液体金属からのスピン流を介した電圧生成(R. Takahashi et al., Nature Physics 2015)では、スピン流生成機構が、流体の形成する渦度の横揺らぎにあることを見出し、線形応答理論による現象理解の突破口を開いた。さらに、力学スピン流生成の理論に関する初めての総合報告(M. Matsuo et al., Frontier in Physics 2015)を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
核スピン系を研究対象とした回転由来の新規現象を、NMRとNQR測定法を用いて発見してきており、理論的にも定式化が進んでいる。回転に伴って物体が磁化する現象であるバーネット効果を現代的なスピンベリー位相の観点から見直し、バーネット効果の起源はベリー位相の定式では動的位相に対応していることもわかった。核スピン系は極低温を除いて常磁性状態であり、核スピン系に類似する系として常磁性状態の電子スピン系において、回転によって物体が磁化することを実証した。これまでバーネット効果は強磁性体のみで観測されてきた現象であったが、我々の発見によりバーネット効果は磁気的状態によらず回転するスピン系における普遍的効果であることが示された。スピン系の回転効果に関して着実に実験事実を積み重ね、理論的にもバーネット効果やベリー位相を包括した理解が進んでいる。これらの知見に基づいて、流体中の渦度を局所的回転とし、渦度揺らぎとスピンの相互作用からスピン流を生じさせる実験にも成功し、有力誌に掲載された(R. Takahashi et al., Nature Physics 2015)。また、理論的な現象の理解も着実に進んでおり、総合報告(M. Matsuo et al., Frontier in Physics 2015)も発表している。 理論面では、ベリー位相を介したスピン起電力の増幅を目的として研究してきた。これまでは対象物質として強磁性体を想定していたが、より大きなスピン起電力が期待できる系として、対象物質を反強磁性体に拡張した。これは反強磁性における磁気励起は強磁性体と比較して、より高速・高エネルギー励起であるためである。本研究内容は一部すでに論文投稿済みであり、研究期間内の論文公表が見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
核磁気共鳴法(NMR)および核四重極共鳴法(NQR)方を駆使し、核スピン系におけるスピンベリー位相を検証する。昨年度までに、コイル回転NMR及び、試料回転NQR測定において、回転に伴って共鳴線の特徴的な分裂が生じることを確認した。この分裂は核スピン系の量子化軸が時間に依存して変化するため、スピンベリー位相による位相蓄積であると考えられる。本年度はベリー位相の定式を用いて、共鳴線の分裂を理論的に再現することに取り組み、NMRやNQR法におけるベリー位相の完全な理解をめざす。 また、昨年度に別予算で購入した超高均一超伝導マグネットを用いて、試料回転のNMRを行い、バーネット効果の高次効果の有無を検証する。もしこの効果が観測されれば、本研究のさらなる進展が期待できる。この効果は微細な周波数シフトとして現れると予想でき、これを観測するためには先鋭なNMR信号が望ましい。そのためモーショナルナロイングにより共鳴線の先鋭化が起こる液体を試料とする。液体試料として、取り扱いが簡便な重水を溶媒とする水溶液試料を用いる。昨年度までの予備実験により高速回転中においては空気との摩擦熱により試料が発熱することがわかっており、これにより共鳴線がシフトする可能性がある。この発熱影響を除外する必要があるため、高速回転する試料温度を非接触で測定する方法を開発する。一つ目のアプローチは蛍光温度計を用いることである。回転体に蛍光体を貼り付け、励起光を照射し、蛍光体の温度に依存する緩和時間を測定することにより、試料温度を同定する。もう一つのアプローチは磁場中における四重極摂動を起因とする共鳴線の分裂幅から温度を同定する。この二つの方法で予備実験を行い、結果の良好な方を採用する。理論的アプローチとしては、昨年度に開始した、高速・高エネルギー励起が期待される反強磁性体を対象としたスピン起電力やスピントルクの数値計算を発展させる。
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