研究課題
(1)フェムト秒2波長レーザーパルスでCO分子の回転波束を励起し、CO分子の回転周期近傍で偶数次高調波の信号強度を最大化する様にポンプ光の条件を最適化し、その同じポンプ光を用いて実際にCO分子がどれだけ配向しているかを速度マップ型のイオン画像化装置を用い、クーロン爆裂イメージング法で明らかにする研究を行った。まず、高次高調波発生については、ポンプ光を照射後にCO分子が配列していると考えられる遅延時間付近(8.8 psと9.3 ps)で偶数次高調波の観測に成功した。偶数次高調波の発生がフェムト秒2波長レーザーパルスによってCO分子のマクロな配向が実現したためと「仮定」して、偶数次高調波と奇数次高調波の強度比から配向度を見積もると~0.04程度となる。そこで、偶数次高調波の発生に最適化されたポンプ光を用い、CO分子が実際にどの程度配向しているかをクーロン爆裂イメージング法で明らかにした。まず、ポンプ光とプローブ光の偏光方向を互いに平行にし、かつ検出器面に平行な配置でCO(2+)から解離したO(+)の信号の角度分布を測定したところ、偶数次高調波が観測されたのとほぼ同じ遅延時間で配向を示唆する信号が観測されたが、配向度の値は最大でも±0.02以下程度であった。さらに、クーロン爆裂イメージング法を用いた配向度の評価を適切に行うため、プローブ光の偏光方向を検出器面に垂直にして観測したところ、配向度の値は偶数次高調波が観測された遅延時間付近でも揺らぎの範囲に止まっており、実質的に配向度~0、即ち、マクロな分子配向は殆ど実現していないと結論せざるを得ないことが明らかになった。(2)非共鳴2波長レーザーパルスを用いた気体分子の配向制御技術の高度化に関しては、この手法を用いて効率的な配向制御を実現するために、干渉計型の光路を導入して2波長間の立ち上がりのタイミングを合わせる作業を進めた。
2: おおむね順調に進展している
(1)フェムト秒2波長レーザーパルスでCO分子の回転波束を励起し、CO分子の回転周期近傍で偶数次高調波が観測される現象については、試料分子のマクロな配向度が低くても偶数次高調波が発生するメカニズムが存在すると考えざるを得ないことを初めて明らかにした。これは、この現象を巡り、当該分野で起こっている大きな混乱を解決するための極めて重要な知見である。(2)非共鳴2波長レーザー電場のみを用いる全光学的な分子配向制御法にプラズマシャッター技術を導入し、レーザー電場の遮断直後や試料分子の回転周期後に、完全に外場のない条件下で配向制御を実現する手法の開発を目指す課題については、目標に向かって着実に前進している。
(1)本研究課題をより発展させる観点から、ベンゼンに代表される回転対称性のよい分子を面配列した分子集団を試料とし、円偏光パルスの照射により発生すると期待される高次高調波を実験的に初めて観測し、その発生特性を詳細に調べることにより、基礎物理過程を解明するとともに、分子構造とその超高速ダイナミクスに関する知見を得ることを目的に研究を進める。一般に、円偏光パルスを基本波とする場合、光の角運動量保存則により高調波の発生は禁制となる。しかし、第一原理計算に基づく理論研究は、面配列したN回対称性をもつ分子に円偏光パルスを照射すると(nN+1)次の高調波が選択的に発生することを予言している。したがって、6回対称性をもつベンゼン分子の場合、5次と7次、11次と13次、、、が選択的に発生すると期待される。この様な対称性の物理は基礎物理学的観点からも極めて興味深い。(2)非共鳴2波長レーザー電場のみを用いる全光学的な分子配向制御法にプラズマシャッター技術を導入し、レーザー電場の遮断直後や試料分子の回転周期後に、完全に外場のない条件下で配向制御を実現する手法の開発を目指す。平成27年度までに、2波長レーザー電場として用いているナノ秒Nd:YAGレーザーの基本波と第2高調波からなるポンプ光の光路中に光遅延路を導入し、2波長間の立ち上がりのタイミングを合わせる準備を進めた。また、プラズマシャッターを通過後の2波長間の相対位相差の観測結果を光遅延路にフィードバックして相対位相差の安定化を図るための準備を進めた。平成28年度は、高い配向度を実現するために回転量子状態を選別したOCS分子を試料とし、実際に2波長間の相対位相差をフィードバック制御して安定化することにより、レーザー電場の遮断直後やOCS分子の回転周期後に完全に外場のない条件下での配向制御技術の確立を目指す。
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Scientific Reports
巻: 5 ページ: 14065(11ページ)
10.1038/srep14065
http://www.amo-phys-s-u-tokyo.jp/
http://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2015/39.html