本年度はモノサイクルレーザーシステムの開発を進めた。2段目の光学パラメトリック増幅器(OPA)からは、超広帯域の赤外光(波長1μm~2.3μm)が5~9μJ程度パルスエネルギーで得られており、これを分散補償光学系に通した後、3段目のOPA(OPA3)を通して増幅する。波長帯域が1オクターブを超えているため、通常の音響光学素子(AOPDF、通称ダズラー)1台では帯域が不足している。そこで波長分割を行い短波長側と長波長側それぞれにAOPDFを適用した後、これらを波長合成する手法を開発した。合成された広帯域赤外光をOPA3に於いて増幅し周波数分解光学ゲート法(FROG)によってパルス幅の測定を行った。分散補償を行わない場合は短波長側だけで約2psにパルス幅が伸びていることが確認された。分散補償を行い、計測の精度を上げるため2次元シアリング干渉法(2DSI)で群遅延測定を行った。その結果、フーリエ限界に近いパルス幅5.3fsが得られた。これは光電場キャリア周期の0.94倍に相当し、モノサイクルパルスとなっていることを意味する。単色フェムト秒パルス励起のOPAでモノサイクル光の増幅に成功したのは世界で初めてである。 既存のアト秒パルス列(APT)ビームラインには、従来のシリコンビームスプリッター(SiBS)2枚による「ポンプ&プローブ」ビーム系に、マッハツェンダー型干渉計配置によるコントロールビーム系を新たに追加した。これは高次高調波と共に発生している3倍波をダイクロイックミラーで空間的に分けて遅延制御をした後、合波するものである。このビームラインを用いて18fs周期の水素イオン分子振動波束の実時間観測に成功した。またSiBSの遅延掃引により重水素からの乖離イオン信号に300アト秒周期の光学干渉成分があることも分かった。この結果によりアト秒コヒーレント制御の原理実証が可能になった。
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