研究課題
本年度は、Alに富んだ含水珪酸塩ペロブスカイトの大型焼結体試料の合成を行い、その試料を用いて中性子回折実験及び放射光X線その場観察法に基づく弾性波速度測定実験を行った。また回収試料のキャラクタリゼーションにも注意を払い、微小部X線回折による生成相及び不純物の同定、電子顕微鏡観察と電子線プローブマイクロアナライザ分析による主要元素の定量分析、及び二次イオン質量分析計によるHの定量を行った。これらの情報を総合的に用いて、元素置換機構の解明、H位置の情報を含めた構造解析、さらには弾性定数や密度、弾性波速度等の物性を明らかにしつつある。加えて、Alに富む新規高圧含水相を見いだし、その相を23Å相と名付けた。この相の構造は透過型電子顕微鏡観察と粉末X線回折パターンから3つの空間群まで絞ることができた。また、電子線プローブマイクロアナライザ分析による主要元素の定量分析を精密に行い、さらには二次イオン質量分析計によりHの定量も行った。この結果、この相は今まで報告されていない構造と化学組成を持つ新規相であることが確定的となり、現在、単結晶構造解析も進めている。尚、この結果に関しては既にアメリカ鉱物学会誌であるAmerican Mineralogistに投稿・受理されている。
1: 当初の計画以上に進展している
含水ペロブスカイトに関する研究は、当初の予定通り、極めて順調に進んでいる。まず、早々に大型焼結体の合成条件を見出すことができ、その条件で物性測定にも耐えうる良質な焼結体合成に成功している。この大型焼結体を用いて、いち早くJ-PARCでのパルス中性子を利用した中性子回折実験を行い、Hの位置情報を含めた構造解析を行った。さらに現在までに、念入りに化学組成と含水量分析、及び格子定数の測定を繰り返し行い、その置換機構と取り込まれる含水量の最大値及びその理由を明らかにしつつある。これらの成果は現在論文執筆中である。さらにSPring-8では放射光X線その場観察法に基づく弾性波速度測定実験から、含水ペロブスカイトの高温高圧下での弾性波速度測定実験に既に成功している。一般に含水相の場合、弾性波速度測定実験に耐えうるような良質な焼結体を合成することは、結晶の粒成長や結晶に入りきれなかった流体相の影響により簡単ではなく、初年度はその研究に時間が費やされるものと想定していた。しかしながら、当初の想定よりかなり早く焼結体合成条件を最適化することでき、今年度から弾性波速度測定実験に取りかかれている事は特筆に値すると思っている。さらに、研究の過程で思いもよらぬ高圧含水相を見出すことができた。そしてそのキャラクタリゼンションを入念に行い、格子定数、可能な空間群や化学組成から、新規高圧含水相で間違いないことを明らかにした。この相は、蛇紋石の高圧相であるphase Aと温度圧力安定領域については類似しており、地球深部への水の運搬を議論する上で重要な相であると考えられる。この結果は既にアメリカ鉱物学会誌であるAmerican Mineralogistに投稿・受理されており、当初の想定を超えた成果を出すことができている。
含水ペロブスカイトの研究については、まずは現在の知見でひとまず整理して論文を執筆、投稿を急ぐ必要があると考えている。加えて、単結晶構想解析の結果もほぼまとまり、また中性子回折の結果も含水無水の試料を比較検討した形でデータ収集ができており、含水の試料では予想通りHの位置の情報も見えてきている事から、これらの解析をさらに進め、公表・投稿していく。さらに弾性波速度測定実験は、H26年度は23 GPa以下である準安定領域での測定を集中的に行い、広い温度圧力領域でデータを収集し、まずは弾性波速度の温度圧力依存性を明らかにすることが目標だった。今後は無水試料の測定を通して、同手法による無水含水試料の直接比較によって、物性値に及ぼす水の影響を解明していく。さらに、今年度は実際のペロブスカイトが安定な23 GPa以上に相当する下部マントル条件下での弾性波速度測定実験を試みる。上記の研究に並行して含水ペロブスカイトの含水量の温度圧力依存性を解明する。加えて、焼結ダイヤモンドアンビルを用いた放射光X線その場観察実験により、50 GPaにも及ぶ高圧下、加えて高温下でのX線回折パターンの収集を行い、状態方程式を明らかにしていく。そして無水含水での密度・弾性的性質の比較を行う。新規高圧相については、その安定領域の解明、放射光X線その場観察実験による高温高圧下での状態方程式の解明を行い、体積弾性率や高温高圧下での密度を明らかにしていく。また、単結晶X線構造解析を行い、新規相の構造を明らかにする。また、中性子回折実験より、Hの情報を含めた構造解析を遂行する。
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