研究課題
本年度は、Alに富んだ含水珪酸塩ペロブスカイト(含水ブリッジマナイト)の大型焼結体試料の合成を行い、その試料を用いて放射光X線その場観察法に基づく弾性波速度測定実験を約20GPaの範囲まで行った。同時に比較対象として、Alに富んだ無水ブリッジマナイトの合成も行い弾性波速度測定実験を行った。 下部マントル領域での実験は焼結ダイヤモンドアンビルを用いて、約50GPaの範囲までの熱弾性パラメータ(状態方程式)の決定を行った。この実験の過程で高圧下での奇妙な弾性的振る舞いが見いだされ、現在その理由について詳しく明らかにしようとしている。これらの研究に加えて、以前から合成に成功していた高圧含水相D相にかなりAlが含まれた相の研究を再開した。この相は沈み込むスラブ中などの下部マントルの低温域で重要となる含水相である。まず単結晶X線構造解析を行い、そのAlとHの置換様式を結晶構造の立場から明らかにした。上記の結果については各種学会で発表したとともに、いくつかの学会・シンポジウムに招待講演として招待された。現在、これらの成果の論文執筆も進めている。加えて、論文投稿としては、我々が初めて見出した高圧新規含水相の研究、地球深部でのCO2の挙動を理解する上で重要な炭酸塩鉱物の脱CO2・溶融の研究、下部マントルの相転移境界として重要なポストスピネル相転移境界の熱力学的手法による精密決定の研究、地球深部での硫黄の挙動として重要な硫酸塩鉱物の挙動の研究など多くの研究成果も公表できた。
1: 当初の計画以上に進展している
含水ケイ酸塩ペロブスカイトに関する研究は、当初の予定通り、極めて順調に進んでいる。現在までに単結晶合成に成功し、その結晶を用いて単結晶X線構造解析を終えた。また大型焼結体の合成条件を見出すことができ、その条件で良質な焼結体合成に成功しJ-PARCでのパルス中性子を利用した中性子回折実験により、Hの位置情報を含めた構造解析に成功している。これらに加えて、念入りに化学組成と含水量分析、及び格子定数の測定を繰り返し行い、その置換機構を明らかにした。これらの結果は含水化が本当に起こっている決定的な証拠であり、ここまでの成果で論文執筆を進めている。さらに放射光X線を用いた研究では、焼結ダイヤモンドアンビルを用い、50GPaに及ぶ圧力までの圧縮特性の解明を行っているが、その過程で奇妙な弾性的振る舞いを発見してきている。これは無水の試料では見られず含水のみの現象であるため、水素原子の挙動によることは明らかである。また弾性波速度測定実験についても現在20GPaまでのデータ収集に成功してきている。今後はさらに測定精度を上げるとともに、圧力範囲を拡張する必要ではあるが、現時点でここまでデータが得られてきている事は当初の予想を超えており極めて順調と言える。さらに、下部マントル低温領域で重要となる高圧含水相の1つであるD相中のAlとHの固溶も面白く、単結晶X線構造解析により、Al置換量の違いによる結晶構造の変化が見いだされてきている。D相にAlが固溶するとD相の含水量が増えるにもかかわらず、その温度安定領域が高温まで安定になることが見いだされており、含水ケイ酸塩ペロブスカイトに次いで重要な相だと考えている。加えて、水(H2O)に次いで地球で重要な二酸化炭素(CO2)や硫黄(S)の挙動にも手を広げ、揮発性元素地球深部科学という枠組みの研究で、当初の想定を超えた成果を出すことができている。
含水ケイ酸塩ペロブスカイトの研究については、合成及びそのキャラクタリゼーションを基にした含水置換様式の議論、加えて単結晶X線構造解析・格子定数による知見、粉末中性子回折によるHの位置を含めた構造の最適化の知見で論文を執筆する。加えて、焼結ダイヤモンドアンビルを用いた50GPaまでの圧縮特性の研究により、現在までに我々が見出している奇妙な弾性的振る舞い現象の追及を行い、そのメカニズムを明らかにしていく。ダイヤモンドアンビルセルにHe圧媒体を用いた極めて静水圧に近い条件で圧縮特性の実験が有効と考えており遂行していく。弾性波速度測定実験は既に20 GPaまでの準安定領域での測定は行ってきており、今年度は実際のペロブスカイトが安定な23 GPa以上に相当する下部マントル条件下での弾性波速度測定実験を行っていく。さらに既に比較対象として無水試料の測定も行ってきているが、その過程で、今までの報告で無水ペロブスカイトとして報告されてきた熱弾性データがばらついていた理由が明らかになってきた。含水ケイ酸塩ペロブスカイトの熱弾性特性を明らかにするためには、しっかりとした無水のデータを得ておく必要があり、その収集に着手する。そして無水ケイ酸塩ペロブスカイトにはチェルマック置換型と酸素欠損型の2タイプがあるが、この2つの置換タイプと含水置換との関係性を明らかにし、その熱弾性的性質、弾性波速度の違いについて明らかにする。さらに上記の研究に並行して含水ペロブスカイトの含水量の温度圧力依存性を解明する。また中性子回折実験により、含水ケイ酸塩ペロブスカイトのH位置の圧力変動も明らかにする予定である。2016年度は既にSPring-8及びPF-AR(KEK)において放射光X線その場観察実験、さらにJ-PARCにおいてパルス中性子回折その場観察実験のビームタイムを獲得しており、研究遂行上問題はない。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (21件) (うち国際共著 6件、 査読あり 21件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (34件) (うち国際学会 10件、 招待講演 6件) 備考 (1件)
J. Geophys. Res. Solid Earth
巻: 121 ページ: 729-742
10.1002/2015JB012211
Phys. Chem. Minerals
巻: 43 ページ: 353-361
DOI 10.1007/s00269-016-0799-4
Rev. Sci. Instrum.
巻: 87 ページ: 24501
doi:http://dx.doi.org/10.1063/1.4941716
Phys. Chem. Mineral.
巻: 43 ページ: 277-285
10.1007/s00269-015-0792-3
Chem. Lett.
巻: 44 ページ: 434-436
http://doi.org/10.1246/cl.141062
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section A
巻: 780 ページ: 55-67
doi:10.1016/j.nima.2015.01.059
Am. Mineral.
巻: 100 ページ: 2330-2335
DOI: 10.2138/am-2015-5148
Geophys. Res. Lett.
巻: 42 ページ: 4335-4342
DOI: 10.1002/2015GL064400
J. Mineral. Petrol. Sci.
巻: 110 ページ: 179-188
http://doi.org/10.2465/jmps.150124
J. Mineral. Petrol. Sci
巻: 110 ページ: 235-240
http://doi.org/10.2465/jmps.150712
巻: 120 ページ: 8259-8280
doi: 10.1002/2015JB012123
巻: 100 ページ: 1483-1492
DOI: 10.2138/am-2015-5237
Phys. Earth Planet. Inter.
巻: 228 ページ: 97-105
DOI: 10.1016/j.pepi.2013.06.005
Phys. Chem. Miner.
巻: 42 ページ: 213-222
DOI:10.1007/s00269-014-0712-y
Amer. Mineral.
巻: 100 ページ: 1856-1865
DOI:10.2138/am-2015-5240
Scientific Reports
巻: 5 ページ: 15233
DOI:10.1038/srep15233
巻: 245 ページ: 52-58
doi:10.1016/j.pepi.2015.05.007
Phys. Rev. E
巻: 92 ページ: 23103
doi:http://dx.doi.org/10.1103/PhysRevE.92.023103
Mineral. Mag.
巻: 79 ページ: 1833-1848
10.1180/minmag.2015.079.7.08
Sci. Rep.
巻: 5 ページ: 14702
doi:10.1038/srep14702
巻: 110 ページ: 189-195
doi: 10.2465/jmps.141126
http://www.grc.ehime-u.ac.jp/