研究課題
本年度は、Alに富んだ含水珪酸塩ペロブスカイト及び比較対象としての無水珪酸塩ペロブスカイトの良質な焼結体試料合成を行い、放射光X線その場観察法に基づく高圧下での弾性波速度測定実験を最大28 GPaの圧力下まで行った。特に今まで問題のあったバッファーロッドの改良を行い、良質な弾性波エコーが得られるように工夫した。また、無水試料においては従来の研究の弱点を克服すべく、「本当に」無水条件下での測定が可能となるように試料合成の工夫を行った。これらの努力により、無水含水の比較に耐えうるデータ精度の向上が可能となった。また焼結ダイヤモンドアンビルを用いた状態方程式の研究ではAgカプセルを用いた閉鎖系の実験を可能にし、高温高圧下でも脱水を防いだデータ収集が可能となった。さらにダイヤモンドアンビルとHe圧媒体を用いて、55GPaもの高圧下までのほぼ静水圧に近い条件下でのデータ収集に成功した。加えて、中性子回折実験に関してはパリエジンバラセルとメタノールエタノール圧媒体を用い、約18GPaまでのデータ収集に成功した。このように圧縮特性の解明に関してほぼ必要なデータが揃ってきた。さらに、Alに富むsuperhydrous phase B相に関しての研究も行い、Al量の違いにより結晶構造が異なることを見出した。加えて、ダイヤモンドアンビルセルを用いて、下部マントル全域にわたる条件下で含水珪酸塩ペロブスカイトとペリクレースの融解実験を行い、共融組成の圧力変化を明らかにした。またその他、関連研究も遂行した。これらの成果は国内外の学会で発表してきたとともに、現在投稿論文の執筆活動も進めている。いくつかの論文は既に公表済みである。
1: 当初の計画以上に進展している
含水ケイ酸塩ペロブスカイトに関する研究については、実験データの精度向上に努めた結果、現段階で含水無水の決定的な違いを議論できるデータ収集に成功している。既に、単結晶X線構造解析、粉末中性子構造解析、高温高圧下での圧縮特性(状態方程式)の解明実験、高温高圧下での弾性波速度測定実験を通して、含水ケイ酸塩ペロブスカイトの結晶構造やその物性が明らかとなっている。一方、水の影響を議論する場合、無水試料との比較が非常に重要となるが、実は研究過程で無水の試料合成の困難さに直面した。(無水と言ってもチェルマック置換型と酸素欠損型の2種類が存在し、複雑に絡み合っている。)よって、極めて「無水」なガラスをチェルマック置換型と酸素欠損型の2種類の組成で作成することにより、それぞれの合成可能性をAl量の関数として明らかにした。また物性測定に耐えうる良質な試料合成にも成功した。この2種類の「無水」ケイ酸塩ペロブスカイトの研究は含水ケイ酸塩ペロブスカイトの性質の解明に匹敵するほど重要な研究であり、“今までよりも格段に質の高い無水試料”を用いた研究がこの1年で急速に進展したことは特筆に値すると考えている。加えて、Alに富むsuperhydrous phase B相に関しては、Al量の違いによりその置換メカニズムが異なること、またあるAl量で結晶構造が異なることを見出した。さらにダイヤモンドアンビルセルによる研究では、下部マントル全域にわたる条件下で含水珪酸塩ペロブスカイトとペリクレースの融解実験を行うことができ、共融組成の圧力変化を明らかにできた。またその他の多くの関連研究も遂行できた。このような研究成果は多くの国内外の学会で発表してきている。このような理由から、研究は当初の計画以上に進展したと判断できる。
今後は現在までの実験データをまとめ、論文化することに集中する。Alに富んだ含水ブリッジマナイトに関しては、その含水置換メカニズムと物性の関係を明らかしてきており、格子定数、体積弾性率、弾性波速度と含水置換との関係を議論し、論文化する。さらにX線及び中性子線による結晶構造解析も完了しており論文化する。これらの論文執筆の過程で、さらに追加及び追試実験が必要となることが想定され、同時並行でこれらの実験も進める。さらにAlに富んだ無水ブリッジマナイトについては、従来の実験より著しく吸着水の影響の少ない実験を可能としてきており、チェルマック置換型及び酸素欠損型の違いを明瞭に明らかにしてきている。この研究は含水との比較の上で極めて重要であり、この研究を完成させる。さらにAlをかなり含んだphase D及びsuperhydrous phase Bの置換メカニズムの理解を完成させるために、結晶構造解析を引き続き行う。このように、今後の方策はまずはまとめであるが、引き続き必要な高圧合成実験、さらに試料のキャラクタリゼーションも行っていく。特に東北大学及び高エネ研での単結晶構造解析実験、J-PARCでの中性子回折実験、SPring-8での弾性波速度測定実験は引き続き進めていく。成果は国内学会及び国際学会で広く発表し、さらにいくつかの国際誌へ投稿する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (17件) (うち国際共著 6件、 査読あり 17件、 オープンアクセス 8件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (27件) (うち国際学会 20件、 招待講演 6件)
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