研究課題
本課題では、近年の日本および周辺アジア域における異常天候の発現メカニズム理解と、それに対する地球温暖化および熱帯域自然変動の寄与を明らかにすることを目的とした各種数値実験を行う。特に、全球的な気温上昇の停滞(ハイエイタス)と、下記の猛暑出現に着目し、大気大循環モデル(AGCM)と大気海洋結合モデル(CGCM)を組み合わせたシミュレーションを考案、実施して結果を解析する。課題2年目となる本年度は、① 結合モデルを用いた長期気候再現実験の実施と解析および、② 結合モデルを用いた事後予測実験、季節予測実験の実施と解析を実施した。①では、熱帯太平洋域の十年規模変動がどのような要因で生じているのかを調べるための要因切り分けを目的とした研究を進め、熱帯大西洋およびインド洋からの影響伝播のメカニズムを明らかにした。さらに、放射強制の要因切り分け実験の結果から、最近20年の西部太平洋の海洋昇温や海水準上昇をもたらした貿易風の強化に、硫酸性エアロゾルによる強制が効いていたことを見出した。一方、②では熱帯太平洋域の海面水温変動のメカニズム理解および予測可能性を探求した。2014年から熱帯太平洋の状態はエルニーニョに向かって変化してきたが、2014年にエルニーニョが発現しなかった理由を事後予測実験を用いて調べた結果、南太平洋からの冷水の貫入がエルニーニョの成長を阻害したということが分かった。
2: おおむね順調に進展している
今年度からPD研究員を雇用し、結合モデルを用いた長期シミュレーションの実施と解析が予想以上に順調に進んだ結果、太平洋域の十年規模気候変動の要因分析に関して想定通りの成果を挙げられた。また、事後予測実験およびメカニズム実験も、分担研究者らによる精力的な研究作業の結果、予定通りに実施することができ、多くの成果を得た。
当初の計画通り、3年目以降は結合モデルを用いた熱帯太平洋大気海洋系変動のメカニズムおよび要因切り分け実験の解析を進め、論文としてまとめる。特に、CO2やエアロゾルなどの人間活動による外部強制と大気海洋系の力学の相対的な役割の理解を目標とする。昨年の非常に強いエルニーニョの発現には、熱帯大気擾乱との相互作用が重要であるとも指摘されており、そのメカニズムを数値実験で調べる。本課題のもう一つの柱である、全球大気モデル(AGCM)を用いた100メンバーのアトリビューション実験については、概ね順調に進行している。3年目以降では、この膨大なデータの解析を進め、日本の夏季の天候に大きな影響を与える西部熱帯太平洋域の海面水温の変動に着目し、近年の西部太平洋の高温状態が夏季の猛暑頻度にどの程度寄与していたかを明らかにする。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 3件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (24件) (うち国際学会 12件、 招待講演 10件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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