研究課題
今年度の研究においては、氷床量を決定する上で重要な海水準について、温暖期に注目しながら研究を進めた。まず過去の海水準変動を決定する上で重要な、古水深情報を得るための手段の一つである、サンゴ礁を使った手法について、総説論文を執筆し、イギリスとアメリカの海水準研究者が取りまとめる本の一つの章として発表した。実際にサンゴ礁を使った海水準の研究として、世界最大のサンゴ礁であるグレートバリアリーフと石垣島などの地形及び年代を測定し、これまでにない詳細な地形データとともに新しいサンゴ礁形成モデルを提唱した。南極地域においては、過去の温暖期で現在および今世紀末の大気二酸化炭素レベルと同様な時期である更新世(300-500万年前)の氷床変動について、宇宙線照射生成核種を使った新しい分析データと、既存のデータのコンパイレーションを行い、氷床モデルと比較検討した結果、当時の西南極氷床は全て融解していたとして、東南極氷床が全球の海水準上昇に与えた影響は少なかったとの結論を得た。これは、南極横断山脈の近傍にあり、西南極同様、海底に着底しているオーロラベーズンやウィルクスベーズンは融解した一方で、温暖化した際に引き起こされた水循環の強化による中緯度からの水蒸気供給量の上昇に伴って、東南極氷床のより内陸部が体積増加したためであることを初めて明らかにした。また、氷床変動と環境変動との関連性を議論するために、アジア地域の陸域環境や南極の氷床下や縁辺に存在する湖の堆積物を地球化学的に分析し、氷床変動に伴った、地形及び生物地球化学的な新たな知見を得るに至った。
1: 当初の計画以上に進展している
今後の氷床変動を理解する上で、温暖期の海水準変動や極域氷床変動の変遷の高精度復元は極めて重要なテーマであるにもかかわらず、まだ定量的なデータが不足している状況にある。そのような状況を整理する上で、過去の環境復元指標の一つであるサンゴ礁についての総説論文を執筆し、それを受けて次年度の研究取りまとめにつなげる予定であったが、並行して進めていた南極氷床の更新世から現在への変遷に関する研究が、Nature Communication紙に掲載されるとともに、この結果を受けることで、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新の報告書で見積もられている、当時の海水準上昇量が、10-30m現在より高かったとされているが、小さい見積もり量(10m)の方がもっともらしいという重要な成果を得るに至った。また、世界最大のグレートバリアリーフにおける研究で、サンゴ礁の形成モデルが、これまで提唱されている枠組みだけでは説明できず、新しいモデルを考える必要があるという、当初の計画を大きく上回る成果を得ることができた。
今後は、現在進めてきている海水準低下期、つまり氷床量拡大期についての研究を進める。海水準の高かった時期のデータは比較的浅い水深や現在の海水準よりも高い地域に存在するために、復元方法が多く存在するが、低海水準期のそれはサンプリングと分析とどちらにも困難さがある。多くの分析試料を高精度で測定する方法の開発を進め、精度の高い見積もりを行うことで、とくに南極氷床が気候寒冷期とどのような関係で融解と成長を繰り返していたかについて明らかにできるように研究を進めていく。
すべて 2015 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (18件) (うち国際共著 3件、 査読あり 18件、 謝辞記載あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (59件) (うち国際学会 37件、 招待講演 7件) 備考 (1件)
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