研究課題
硫酸イオンは海水中に膨大に含まれ,滞留時間は1000万年以上で,海洋内では均質と考えられてきた.それに反するデータが約50Maの深海堆積物より示されたことから,当時の北極海と北大西洋の接続に関連し,北極海起源の高い硫黄同位体比(d34S)を持つ硫酸を含む海水が北大西洋に流入し,それが中・深層水となって世界各地に運搬された仮説を立てた.これが正しければd34Sを用いて過去の深層水循環をトレースできると予期された.本研究は50-40Maの世界広範囲の硫酸d34Sの不均質性の証明を試みた.この期間のd34Sデータは研究当初は極めて限られていた.世界各地のIODP/ODPの深海底試料の石灰質軟泥試料を中心にバライトおよび炭酸塩付随硫酸(CAS)のd34Sの分析を進めた.バライトは堆積後の続成には強いが,数十グラムの試料からさえ抽出することは困難で,ごく限られた試料のみからしか検出できなかった.一方CASはほぼ全ての海域の大多数の試料から得たが,続成作用の影響評価の必要があった.そこで本研究はバライトとCASを同試料から回収してそのd34Sを比較した.試料処理法の確立に時間を要した.その結果,間隙水の化学組成が示す硫酸還元フロントよりもコア深度が浅ければ,CASは始原的なd34S値をほぼ保持し,過去の海水のd34S値推定に有用である事が判った.CASのd34S変動は世界中で同様で,問題提起に用いた赤道大西洋のバライトデータだけがずれていた.このコア試料の年代決定に問題があった可能性がある.本研究結果は50-40Maの海水のd34Sが世界中均質で,この期間中定常状態を保ちつつ約5‰正側へシフトしたことを示した.同時にCASの過去の海水のd34Sプロキシとしての重要性,その利用に際しての評価指標を示した.当初の深層水循環指標の構築には至らなかったが,古海洋研究に大きな貢献ができた.
平成29年度が最終年度であるため、記入しない。
すべて 2018 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (3件)
IODP Preliminary Report
巻: 369 ページ: 1-33
10.14379/iodp.pr.369.2018
Chemical Geology
巻: 46 ページ: 89-106
10.1016/j.chemgeo.2018.09.014
Geochemical Journal
巻: 52 ページ: 273-280
10.2343/geochemj.2.0513
Island Arc
巻: 27 ページ: e12243
10.1111/iar.12243