研究課題/領域番号 |
26247094
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平田 岳史 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (10251612)
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研究分担者 |
折橋 裕二 東京大学, 東京大学・地震研究所, 助教 (70313046)
伊藤 正一 京都大学, 理学研究科, 准教授 (60397023)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ウラン-鉛年代測定法 / 年代サイトメトリー / デイリーイオン検出器 / 放射非平衡 / 高感度多重イオン検出 / プラズマイオン源質量分析法 / レーザーアブレーション / 高精度年代学 |
研究実績の概要 |
分析技術の進歩にともない年代情報の質や量は飛躍的に向上し、今では高品質かつ大量年代情報が議論の客観性・信頼性を左右するまでに至っている。本研究では、最も精密な絶対年代情報を与えるウラン―トリウム-鉛年代測定法に注目し、年代データのさらなる高精度化と、適用年代範囲・適用可能試料種の拡大を図る。この目的のために、本研究ではウラン-鉛同位体比測定の高感度化・高精度化が可能なイオン検出器の開発と、年代データの系統誤差の原因となる放射非平衡の補正法の確立を目指す。これまでの研究により3個の小型デイリーイオン検出器を開発し、プラズマイオン源質量分析計(MC-ICPMS装置)に装着し、同位体分析に対する基礎的性能評価を行うとともに、並行して長期安定性(シンチレーターの劣化等)の評価も進めている。開発したデイリーイオン検出器は、ノイズと信号の差別化が容易であることから、イオン信号の数え落としを最小限に抑えることが可能であるうえ、さらにその補正に際してパラメーター設定が容易な「非拡張型補正法」が適用可能であることも明かとなった。デイリーイオン検出器を用いることで、従来は計測ができなかった1000万カウントを越える強いイオン信号でも正確な計測が可能となり、年代測定の適用範囲の拡大が図れた。さらに本年度は、本研究を通じて実用化した「放射非平衡の補正法」により、非常に若い形成年代をもつジルコン(<50万年)からも正確な年代情報を引き出すことに成功した。これらの研究成果はいずれも国際学会で発表するとともに、国際誌への公表も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実施計画では、本年度は次世代の高感度・高安定性のイオン検出器(デイリー検出器)と、それを応用することでU-Pb年代測定法のさらなる高精度化・適用範囲の拡大を図ることが到達目標である。この目的のためには、広ダイナミックレンジでの精密計測が不可欠である。本研究の実施計画では、複数のデイリーイオン検出器を鉛の同位体を同時に検出し、高精度年代情報を取得することが目的であった。これに対し、本年度の研究では、ウランまで新型デイリーイオン検出器を用いた計測とともに、非常に複雑な放射非平衡の補正が可能となり、その結果、年代分析の適用範囲が当初の目標を超えて広く拡大することとなった。世界で10万年よりも若い試料からウランー鉛年代データを引き出せる研究室は殆どない。 本年度は、ウラン信号の正確な計測に特化した高質量数側デイリーイオン検出器を設計・製作するとともに、多重検出器型ICP質量分析計に装着し基礎的分析性能評価を行った。強いイオン信号を用いて検出器の応答性(不感時間の測定)を評価した結果、簡単な数え落としの補正を行うことで、数cpsから1000万cpsまでの7桁以上のダイナミックレンジで正確な計測が可能であることが明らかとなった。本年度の改造により、3基のデイリーイオン検出器を用いて206-Pb, 207-Pb, 238-Uの3同位体を同時に検出(年代精度に大きな影響を与えない202-Hg, 204-Pb, 208-Pb信号に関しては従来のマルチプライアイオン検出器を利用)する世界初の質量分析装置となり、年代分析において世界を先導できる装置となった。今後は、本研究で開発した分析装置構成が、年代測定のベンチマークとなるものと期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
現在、実践的な年代分析と並行して、更なる長時間安定性や高圧部品の劣化の有無を評価するとともに、より簡便に操作するための計測ソフトの開発を進める。本年度は研究分担者である折橋博士と伊藤博士らとの共同研究を通じて、これまで分析が困難であった2ミクロン領域からの年代測定や、表層薄領域(深さ1ミクロン以下)からの年代測定を試みる。こうした年代分析では、元素の二次的移動や表面汚染の影響により年代データの信頼性が著しく低下する可能性が高い。この問題に対し本研究では、分析に先がけ試料に対して鉛・ウランの広領域二次元マッピング分析を行い、分析部位の選定を行う。さらに、ジルコン鉱物以外の試料・鉱物の年代分析に向け、標準物質の選定・評価を進める。こうした年代分析は、デイリーイオン検出器でなければ実現できない高度な同位体計測であるため、本研究の中核的な研究要素と位置づけることができる。本研究で得られた結果は、国際学会等で積極的に発表するとともに、国際誌での公表も進める予定である。また本年11月には第7回国際プラズマ分光分析学会(Asia-Pacific Winter Conference on Plasma Spectrochemistry)を主催することが決定しており、これまで得られた研究成果を世界に向けて発信する予定である。
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備考 |
最新の研究業績をwebにて不定期に公表している。
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