研究実績の概要 |
希土類元素相互の化学分離について昨年度までに開発した手法に改良を加え、同手法を種々の宇宙化学試料に適用した。昨年度に引き続き、太陽系初期に分化した惑星物質であるユークライト隕石、アポロ計画で採取された月表土について、Sr, Baおよび希土類元素の相互分離を一連の操作でおこなった後、表面電離型質量分析計TRITON-Plusを用いてSr, Ba, La, Ce, Nd, Sm, Gdの精密同位体測定を行った。また、原始太陽からの過剰太陽宇宙線照射による痕跡を同位体科学的に探ることを目的とし、今年度は新たに、太陽系最初期に形成された高温凝縮物であるCaとAlに富む鉱物塊CAI粒子をAllende隕石から採取し、上記手法にて同様にSr, Ba, La, Ce, Nd, Sm, Gdの精密同位体測定を行った。特に、La同位体比についてはCAIと月試料において明らかな違いが認められた。CAI試料では138La/139La同位体比に0.5~0.9 %の顕著な過剰が見出され、核破砕反応により生成された138Laの蓄積と考えられる。一方、月試料における138La/139La同位体比は-0.27~+0.16 %とばらつきがあり、測定した試料のほとんどは標準物質に対して138Laが欠乏しているという結果を示した。月面においては宇宙線照射による核破砕反応で138Laが生成される一方、同時に138La(n,γ)139Laの反応によって138Laが中性子捕獲を起こし、139Laが生成されることが考えられる。中性子捕獲反応の起こる頻度は149Sm/150Smおよび158Gd/157Gd同位体比の変動で定量的に評価できる。両者のSm, Gd同位体比を比較したところ、月試料には顕著な変動が認められたが、CAIではほとんど認められず、両者には宇宙線照射環境において大きな差があることがわかった。
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