研究課題/領域番号 |
26248001
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
村越 敬 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40241301)
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研究分担者 |
保田 諭 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (90400639)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | プラズモン増強電場 / 金属ナノ構造 / 色素分子 |
研究実績の概要 |
局在プラズモン励起特性の制御された金属構造を作製し、カーボン材料や色素分子系の表面増強ラマン散乱計測から共鳴励起プロセスにおけるプラズモン電場と物質系の相互作用に関する基礎的知見を取得し、電子遷移選択則の変調を検証する。本年度は初めに、局在プラズモンのエネルギーと空間局在性制御のための構造制御金属ナノ構造の構築を行った。導電性ガラス上にレジスト溶液をスピンコートし、その後ホットプレート上で乾燥させることで、均一なポリマー層を形成した。その後、超高精度電子ビーム描画装置を用いて電子線描画を行い、基板を現像後、ヘリコンスパッタリング装置によってAuをスパッタリング、リフトオフを行うことで基板上に金属ナノ構造を作製した。電界放射型走査型電子顕微鏡を用いて構造評価を行った結果、異方性のある構造体の形成が確認され、10nm程度のギャップ形成を確認した。本構造に対して2量体長軸方向、短軸方向に変更方向を変えて電気化学環境下で取得したin-situ単粒子顕微散乱スペクトルからは、構造に依存した極大共鳴波長を持つことが確認された。また、極大吸収波長が近接した色素分子を構造制御金属ナノ構造に担持すると、局在プラズモン電場と色素分子の電子系が強く相互作用するスペクトルが観察された。さらにこの結合状態は電気化学電位で自在に制御することが可能であった。以上、プラズモン電場と分子系の電子状態を強く相互作用させる系の構築に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
制御されたプラズモン増強電場を構築し、少数分子系と強い相互作用する系の構築に成功した。 本年度で、電子線リソグラフィー技術を確立し、所望のプラズモン励起波長をもつ金属ナノ構造体の作製に成功した。また、極大吸収波長が近接した色素分子を金属ナノ構造に担持すると、局在プラズモン電場と色素分子の電子系が強く相互作用し、強結合系が形成された。この単一強結合系の光学特性を電気化学環境下、in-situで評価可能な顕微散乱分光系を新たに構築し、その特徴を明らかとした。強結合と呼ばれるエネルギーの混成状態が形成され、分裂した2つの新たな吸収帯がて観測される。色素分子の担持量に依存した吸収エネルギーの変化と、LSPRエネルギーを制御することによる分裂の変化の観測から、結合状態の定量的議論を可能とした。さらに顕微散乱分光に加え、顕微偏光ラマン観測をおこなうことによってLSPの方位に依存した増強を確認すると共に、消光スペクトル強度に比例したラマン強度の増加を確認した。これらによって、強結合系からの特異な光散乱現象を世界で初めて明らかとした。さらに強結合状態の形成と吸収波長について電気化学環境にて評価を行った。電気化学電位依存性をin-situにて消光スペクトル測定することによって、LSPRエネルギーは自由電子密度の変調に伴ってシフトし、分子の励起子との混成状態が自在に変調可能となることが確認された。以上、LSPRによって物質の励起状態を変調する新しい系を創出し、それらを自在に制御する手法を開拓した。
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今後の研究の推進方策 |
プラズモン励起による電子励起プロセスの変調検証を、物質系を拡張して行う。グラフェン、欠陥ナノダイアモンド、量子ナノドット(PbS, CdTeなど)、ポリアセン系有機分子などを対象に、同様のin-situ電気化学顕微ラマン分光計測によって検証する。ラマン計測によって、局在プラズモンによって局所的に誘起される物質の共鳴励起強度を定量的に評価する。また、対象系の電気化学ポテンシャルを制御した環境下、ラマン計測を行い、ラマン散乱強度とスペクトル変調から系の励起効率、電子密度変化を計測し、励起に関与する電子準位の電気化学ポテンシャルを決定する。物質の電子構造、結晶・分子構造の幾何異方性、光学特性に合致した金属ナノ構造を設計し、最適な局在プラズモンのエネルギー、強度、局在空間構造によって最も効率良く共鳴励起される系の構築条件を定式化する。また、 量子ナノドット(PbS, CdTeなど)、ポリアセン系有機分子などについては、多重励起子形成が通常光照射でも誘起されることが知られている。この励起プロセスが、プラズモン電場によって増強される可能性が指摘されており、その可能性を検証する。この他、プラズモン誘起発光計測による励起状態の緩和過程の評価など通じて、実励起状態の情報を明らかとする。その後、電子移動を伴う化学反応や光電流が誘起される系を構築する。これらの試みを通じて、物質の光吸収能そのものを改革することによって光エネルギーの極限利用を可能とする光物質科学の新しい技術を開拓し、その際に発現する現象を包括する統一的な解釈の枠組みを創出する。
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