研究課題
特定の数の金属原子が会合した「超原子」と、さらにそれらが結合した「超原子分子」を構成単位とする新しい次元の物質科学の開拓を目指して、本年度は下記の成果を得た。【新規超原子・超原子分子の探索】気相に孤立したアルミニウムクラスター負イオンAl13-は、幾何的・電子的に閉殻構造を持つ代表的な超原子として知られている。PVPのモノマーであるエチルピロリドン(EP)のAl13に対する逐次的な吸着構造と安定性を理論計算によって検討したところ、EPがカルボニル基を介して配位することで、Al13を安定化することがわかった。この結果は、PVPで保護することでAl13-超原子を合成できる可能性を示唆している。また、魔法数クラスターAl23-が面共有の双二十面体構造を持つ可能性を理論計算によって見出し、原子価結合法に基づいてその結合様式を提案した。【新規超原子の合成と評価】チオール保護金クラスターAun(SR)mをn = 25~520の範囲で系統的に合成し、その電子構造と幾何構造を調べた。その結果、Au144(SR)60以下でバルク金属には見られない正二十面体や十面体構造が発現し、電子構造が離散化することを明らかにした。また、低ドーズ収差補正電子顕微鏡法によってAu68(SR)32の原子構造を決定し、単結晶X線回折法にかわる汎用的な精密構造解析法としての可能性を示した。さらに、Au25(SR)18の一部の原子をAgやCuで置換した合金クラスターを合成し、極低温でのEXAFS解析によってドーパントの占有位置を決定し、その原因を考察した。【新規超原子分子の合成と評価】有機配位子の存在下で金前駆体イオンをゆっくりと還元することで、直径が2nm以下の1次元構造をもつ金クラスターの合成に成功した。得られた1次元金クラスターが、近赤外~赤外域に強い吸収帯を持つことを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
下記に挙げる通り、各課題について当初の想定以上の進展があった。【新規超原子・超原子分子の探索】これまでは金や銀などの貨幣金属を使った超原子のみが合成されていたが、代表的な汎用元素であるアルミニウムを使った超原子や超原子分子が合成できる可能性が理論計算によって示された。【新規超原子の合成と評価】チオラート保護金クラスターについては、様々なサイズの超原子ライブラリーが構築できつつある。幾何・電子構造解析については、極低温でのXAFS解析や吸収分光法、低ドーズ収差補正電子顕微鏡法、高エネルギーX線回折法などが、有効であることが明らかになった。【新規超原子分子の合成と評価】これまで超原子分子としては、2つのAu13金超原子が頂点あるいは面を共有しながら連結した構造しか知られていなかった。本年度は、金イオンの還元速度を極端に抑えることで、異方的な結晶成長が進行することを見出した。このことは、超原子のオリゴマーやポリマーが合成できる可能性を示している。
今後は下記を念頭において、各課題に取り組む。【新規超原子・超原子分子の探索】湿式法あるいはドライプロセスを利用して、アルミニウムAl13-超原子の合成に取り組む。またAl23-については、分子との気相反応性や解離実験によって、双二十面体構造の可能性を検討する。【新規超原子の合成と評価】バルキーな構造をもつチオールや末端アルキンなどを保護配位子とする金超原子の合成、および構造解析に取り組む。【新規超原子分子の合成と評価】金1次元構造の長さや直径を、原子精度で系統的に制御する方法の開発に取り組む。また、これらの1次元構造体の異方性構造と光学特性の相関を調べ、その起源が電子軌道間の1電子遷移によるものか、表面プラズモン共鳴によるものかを明らかにする。
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