研究実績の概要 |
平均原子価状態にあるPdBr錯体を得たため、この錯体の詳細を明らかにするために種々の測定を行った。その結果、この錯体の電気伝導率は40 Scm^-1と非常に高く、PdBr錯体としてのこれまでの最高記録から100万倍も向上していることが明らかとなった。また、試料を加熱しても平均原子価状態から混合原子価状態への相転移が現れることはなく、443 Kで分解が起こった。このような高温まで平均原子価状態を維持しているPdBr錯体は初めてである。これは、面内配位子のヒドロキシ基が対アニオンであるBr-イオンを遠ざけることで、一次元鎖間が離れ、代わりに一次元鎖方向への圧縮が起こったことで、平均原子価状態が安定化されたものと考えられる。 また、擬一次元ハロゲン架橋金属錯体と呼ばれる物質系を中心にその熱電特性の評価を行った。擬一次元ハロゲン架橋金属錯体はNi, Pd, Ptを中心金属とした一次元電子系物質であるが、CoやCuなどをドープすることでその電子状態を連続的に制御できることが知られている。我々はNi錯体とPd錯体に対してCoをドープすることでどのように熱電特性が変化するかを調べた。本研究では[PdII(R,R-chxn)2][PdIV(R,R-chxn)2]Br2]Br4、および[NiIII(R,R-chxn)2Br]Br2 (R,R-chxn = 1R,2R-diaminocyclohexane)を対象とした。加えてここに異種金属として電子不足なコバルト三価をドーピングした[Ni1-xCox(chxn)2Br]Br2、[Pd1-xCox(chxn)2Br]Br2を合成し、xを変化させながらゼーベック係数Sの測定を行った。この測定により、n型半導体である[NiⅢ(R,R-chxn)2Br]Br2へのホールドーピングによるゼーベック係数Sの減少を確認できた(表1)。真性半導体である[Pd(R,R-chxn)2Br]Br2ついては抵抗が極めて高く、ホールドーピングによるゼーベック係数の変化を系統的に評価することは出来なかったが、パラジウムMX錯体へのコバルトドープの報告例はまだなされておらず、新規化合物である。
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