研究課題/領域番号 |
26248016
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
塩谷 光彦 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60187333)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 超分子金属錯体 / 金属配列 / 大環状配位子 / 人工DNA / 鋳型分子 |
研究実績の概要 |
本研究は、炭素フレーム・合成分子・生体分子を鋳型配位子とする自在金属配列法を確立し、その配列に基づく新しい構造・物性・機能を創発することを目的とした。 【炭素フレームを鋳型とする金属配列】炭素一原子を核とするカチオン性6核Au(I)クラスターの金属交換反応(C-M→C-M’)、およびマルチ単座配位子による、炭素原子が複数種の金属イオン(例:Au(I), Ag(I), Cu(I))に囲まれた混合金属クラスターを合成を目指した。配位子の合成に成功し、現在混合金属クラスター合成のためのビルディングブロック金属錯体の合成を検討中である。 【合成分子を鋳型とする金属配列】芳香族系大環状化合物の精密な分子設計に基づき、単位構造中の金属の数や種類を変え、様々な分子電線の結束構造を構築した。このような会合は溶媒の極性に大きく影響されるため、化学修飾による溶解度の調節も重要である。会合体の形状は、AFMを用いて明らかにした。 【生体分子を鋳型とする金属配列】DNAや蛋白質のような配列情報を有する生体高分子は、構成するビルディングブロックの配列に一義的に対応する折りたたみ反応により、分子認識や化学反応に必要な構造を形成する。本年度は、人工DNA二重鎖や三重鎖内に金属イオンを配列できること、また、三叉路型DNAのジャンクション部位の空間に金属錯体を導入できることを利用し、これらの二つの構造モチーフとDNA特有の配列設計性を生かして、ジャンクション部位を有する分岐型金属配列構造にアプローチした。その結果、人工DNA二重鎖に新たに希土類金属イオンを配列できること、さらに金属配位部位と水素結合部位を兼ね備える人工核酸塩基を用いて、金属イオンの有無で会合構造が大きくスイッチングする分子システムを構築することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、炭素フレーム・合成分子・生体分子を鋳型配位子とする自在金属配列法を確立を目指した。炭素フレームとして炭素一原子およびベンゼンを鋳型として、水素を金属イオンに置き換える合成の条件を種々検討した結果、カルベン型配位子が有効であることを見いだした。カルベン型配位子はデザイン性が高く、金属イオンに結合する炭素原子の性質を容易に調整できるため、様々な物性や機能を持つ金属錯体の構築が可能となった。また、芳香族系大環状配位子は、環内の金属イオンの数や相対位置を設計できるだけでなく、配位子間相互作用により金属配列が誘起されるというマルチ機能を持つことを明らかにした。これまでに見られなかった金属間相互作用による物性発現が見られている。さらに、配列情報および多様な構造を持つDNA分子固有の特性により、金属イオン配列の多様性が実現されつつある。人工核酸塩基がこれまで用いていたCu(II)イオンで分解することがわかったため、他の金属イオンを試した結果、一連の希土類金属イオンを配列できることがわかり、金属の多様性という点で大きく発展することが期待されている。また、人工DNAを天然酵素で合成することに成功したため、長鎖の金属ワイヤーの構築が可能になりつつある。 以上のように、初年度のみで、一原子、合成分子、生体高分子を鋳型とする金属配列化法の基礎を固めることができ、今後の展開が飛躍的に加速したと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
初年度で、一原子、合成分子、生体高分子を鋳型とする金属配列化法の基盤技術が確立したので、今後は以下のような推進方策により、本研究の展開を図りたい。 【炭素フレームを鋳型とする金属配列】混合金属クラスター合成のためのビルディングブロック金属錯体の合成を完成させ、Au(I)、Ag(I)、Cu(I)、Fe(II)、Ni(II)などを含む皇后金属クラスターの構築を進める。また、ベンゼン環の隣り合う二つの水素原子をAu(I)で置き換えることに成功したので、二置換アセチレンの三量化によりホウ素6置換ベンゼンを経由し、ベンゼンーAu(I)六核錯体の合成を行う。また、光物性、酸化還元機能、触媒機能を検討する。 【合成分子を鋳型とする金属配列】芳香族系大環状配位子の金属錯体の会合条件、会合構造、安定性を明らかにするとともに、金属の種類についてもPt(II)、Pd(II)、Ni(II)、Au(I)などを検討し、金属錯体間の相互作用をAFMなどの方法により解析する。 【生体分子を鋳型とする金属配列】DNAの分岐構造を利用し、遷移金属イオンと希土類金属イオンが混合した分岐型ワイヤーを構築する。電子やエネルギー移動の方向制御などが可能かどうかを、電気化学や種々の分光法により検討する。また、酵素合成に適用できる天然酵素の探索を行い、DNA伸長反応の分子量制御を試みる。さらに、配位子型人工ペプチドを用いた金属配列にも成功しているので、ペプチドの主鎖と側鎖の両方を活用した新しい構造モチーフを持つ金属多核錯体を構築する。
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