本研究は、炭素フレーム・合成分子・生体分子を鋳型配位子とする自在金属配列法を確立し、その配列に基づく新しい構造・物性・機能を創発することを目的とした。 【炭素フレームを鋳型とする金属配列】炭素一原子を核としてN-heterocycle配位子に支持されたカチオン性六核Au(I)クラスターの吸収・発光特性と電気化学性質を検討し、リン配位子に支持されたクラスターと詳細は比較を行った。これらの構造・物性の違いは、配位子のσドナー性の違いにより説明できた。また、マルチ単座配位子による二核Au(I)錯体の合成し、Au(I)からAu(III)への化学的および電気化学的酸化を検討し、この過程が混合原子価錯体を経由する段階的反応であることを見出した。 【合成分子を鋳型とする金属配列】二つの二座配位子を環内に有する芳香族系大環状配位子を用いて、フェロセンを環内に捕捉させることによる、M-π-M-π-Mの配列化に成功した。また、フェロセンの酸化電位は包接により著しく変化することを見出した。 【生体分子を鋳型とする金属配列】イミド基と水酸基を隣接して有する配位子型核酸塩基(5-ヒドロキシウリジン塩基)は、希土類イオンを介する熱的に安定な塩基対を形成し、希土類イオンの精密配列に有用であることを見出した。この人工塩基は、アデニン塩基との水素結合と金属イオンとの配位結合の両方が可能であるため、金属イオンの濃度変化により、鎖交換反応が可能であることを見出した。また、三叉路型DNAのジャンクション近傍に人工配位子を導入し、金属錯体形成における不斉誘起を試みた。その結果、鏡像体過剰率は低いものの、予想した絶対配置をもつキラル金属中心を形成することに成功した。現在、配位子とDNA鎖をつなぐリンカーの最適化を行っている。
|