金属イオンと配位子の自己集合からなる無限構造を有する多孔性配位高分子(MOF)はガス吸着特性、触媒作用などを示す多孔性材料である。本研究では様々な構造を有するMOFに対して液相中の逐次構築法(LbL)を適用することで、成長方向が制御された結晶配向性ナノ膜の構築が可能であることを実証し、表面および界面の効果に起因する新規な現象と物性の発現を見出すことに成功した。 MOFの薄膜化による応用の際に、MOFの持つ素機能の集積という観点から、ヘテロ接合型の薄膜作製は重要な技術となるが、本研究では、三次元Hofmann型MOF、Nipz、Ptpzを用いてNipz層を5層積層し、その上部にPtpz層を30層積層したヘテロ接合膜(Nipz5L-Ptpz30L)の構築に成功した。放射光X線回折測定からは、下部に存在する格子定数の小さいNipzの存在による歪みの導入により、上部のPtpz層が収縮していることが明らかとなり、Fe2+周りの配位子場の変化が示唆された。そこで、温度可変X線回折・ラマン分光測定を行い、スピン状態の温度依存性について検討したところ、Fe2+イオンの高スピン/低スピン状態間のスピン転移温度がバルクや通常のPtpz薄膜と比較して80 K程度も高温側にシフトしていることが明らかとなった。これは、従来の構成要素の置換や外場の利用などとは全く異なる新規な物性制御の手法である。これらの知見や技術を用いて、一方向プロトン輸送を可能とするMOF薄膜の作製とインピーダンス測定が継続して進行中である。
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