研究課題/領域番号 |
26248023
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中村 貴義 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (60270790)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | リラクサー / 強誘電体 / 分子ローター / 超分子 |
研究実績の概要 |
結晶内での回転や大振幅運動に基づく双極子の配列変化を利用した分子性リラクサーを系統的に作製し、その物性発現の機序を明らかにするとともに分子設計指針を提出し、機能開拓を進めることが本研究の目的である。単結晶内に超分子構造を導入して、①双極子を有する分子ユニットが2極小以上のポテンシャル空間において回転・大振幅分子運動が可能である系を構築する。②外部電場によりポテンシャル極小間で分子ユニットを運動させ、双極子を配列制御する。③その結果、局所的な分極領域を形成させ、リラクサー型の誘電物性を発現させる。という指針のもと研究を進めた。本年度は昨年度に引き続き、最も有望な系として見出した、(1NA+)(dibenzo[18]crown-6)[Ni(dmit)2]- (1NA+ = 1-naphtalene-aminium) について、構造および物性の詳細を検討した。詳細なX結晶構造解析の温度変化測定を行った。結晶の空間群は160K以下では中心対称性をもたないP21であるのに対して、240K以上では1NA分子上にミラー面が出現してP21/mに変化する。この中間の温度では、明確な転移点を持たずに結晶構造が徐々に変化していることが明らかとなった。したがって、この系はリラクサー型強誘電体としての特徴を備えていることが判明した。また、フルオロアダマンタンを用いた系においては、温度上昇により分子回転に伴うディスオーダーを示す、有望な系を見いだした。誘電応答の温度依存性にも周波数依存がみられ、今後精査を進めることとしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子性リラクサーの探索のため、種々のアンモニウム誘導体(m-置換アニリニウム、アダマンタンアミニウム誘導体、含窒素複素環カチオン、多環芳香族誘導体)とクラウンエーテル誘導体、(アキラル誘導体:[18]crown-6, dibenzo[18]crown-6, dicycohexano[18]crown-6、キラル誘導体:trans-anti-trans-dicycohexano[18]crown-6)からなる超分子カチオンを用い、カウンターアニオンとして[Ni(dimt)2]-およびポリオキソメタレート(POM)誘導体を選択し、これらの組み合わせからなる多数の結晶を合成した。これらの中で、(1NA+)(dibenzo[18]crown-6)[Ni(dmit)2]- について、温度変化に伴う構造の詳細を、1昨年度に導入したX線結晶構造解析装置を用いて詳細に検討した。その結果、リラクサー型強誘電体としての特徴を捉え、tanδにみられるリラクサー誘電体的な誘電緩和が観測との対応を確認することが出来た。また、アダマンタンを用いた系についても、分子回転に伴う誘電率の温度・周波数依存性を確認するなど、研究は順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、引き続き、有機アンモニウムとクラウンエーテル誘導体により形成する超分子カチオンを用いて、多様な回転ポテンシャルを有する超分子ローター構造を構築する。これまでの経験を基に結晶設計を行い、カウンターアニオンは良質な結晶を与えることを最優先に選択しつつ、結晶内で双極子が比較的孤立した系を探索する。得られた結晶について、詳細な構造物性評価を行う。X 線構造解析の温度変化測定を詳細に行い、構造を決定する。平成26年度に導入したX線結晶構造解析装置を活用し、双晶等についても積極的に取り上げる。そのためのソフトウエアを整備する。相転移の有無についてはDSC 測定から推定し、必要であれば比熱測定を行う。また、SHG 測定から結晶の極性変化を明確にする。結晶内の分子回転は、X 線構造解析における温度因子の変化に留意しつつ、ポテンシャル計算およびNMR測定で定量的に評価する。 誘電率の温度変化を中心に、誘電物性を明らかにする。コンダクタンスは別途直流伝導度測定で評価する。また、磁性についても評価する。これらを通じて、分子性リラクサーの系統的な探索を行うとともに、分子設計指針を探究する。
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