研究課題
平成27年度の研究成果を、各テーマ別に述べる。(A) 優先富化現象を示すラセミ体の医薬品二成分共結晶の探索とその機構解明:新たに、優先富化現象を発現するための5つの必要条件を満足する医薬品候補化合物として抗低脂血症薬CPPPAを選定し、この化合物のラセミ体が低効率ではあるが優先富化現象を示すことを発見した。ついで、ラセミ体のCPPPAとアキラルなイソニコチンアミドの1対1共結晶を調製して2-プロパノールから再結晶したところ、高効率で優先富化現象を示した。これは、医薬品の共結晶が優先富化現象を示した最初の例であり、今後この手法は様々な医薬品の光学分割(優先富化現象の発現)に適用できると期待できる。(B) キラル有機ラジカル化合物を起点とするメタルフリーな磁性ソフトマテリアルの合成と機構解明:キラルネマチック液晶相を示す(S,S,S,S)体のビラジカル液晶性化合物(99% ee)の合成に初めて成功し、SQUID磁束計とEPR分光法を用いるモル磁化率の温度依存性の測定により、液晶相中で非常に大きな「正の磁気液晶効果」を発現することを発見した。事実、この磁性液晶を温水上に浮かべて永久磁石を近づけると、磁石に引き寄せられて温水上を素早く動いた。一方、疎水性ニトロキシドラジカル化合物を生体適合性界面活性剤に内包させた、安定なメタルフリー磁性ナノエマルションの調製に成功した。ナノエマルションの粒径はラジカル化合物の分子構造によって変化し、17 nmから70 nmまでの粒子を自在に調製することができた。さらに、この磁性ナノエマルション内に疎水性の擬似ドラッグを内包させることができることも確認した。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度に続いて27年度の研究もおおむね予定どおり進行した。テーマ(A)では初めて優先富化現象を示す医薬品共結晶を発見することができ、この現象の一般性を拡張することに成功した。一方、テーマ(B)では光学活性なビラジカル液晶性化合物の合成に初めて成功し、この化合物が液晶状態で予想以上に大きな「正の磁気液晶効果」を示すことを明らかにした。また、MRIやDDSなどの生体医療への応用がおおいに期待されるメタルフリー磁性ナノエマルションの調製にも成功し、これについての特許出願も行い、実用性を検討する段階まで到達している。
平成26年度と平成27年度の研究成果により、今後何をすべきかについての方向性が明瞭になった。テーマ(A)については、今後も優先富化現象を示す医薬品の検索を行い、それぞれの場合の優先富化現象の特徴と機構を明らかにし、一般性の拡張に努める。テーマ(B)については、合成したメタルフリーなキラル磁性液晶が示す「正の磁気液晶効果」の磁性発現の機構について、最近、磁気物性を専門にする物理学研究者が関心を示しはじめたため、今後彼らとの共同研究も行う。また、メタルフリー磁性ナノエマルションについては、生体医療の検討のみならず、物理化学者との共同研究により、エマルションの構造と磁性に関する研究も推進する。
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 1件、 査読あり 10件、 謝辞記載あり 10件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 13件、 招待講演 5件) 図書 (1件) 備考 (2件) 産業財産権 (1件)
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