研究課題
平成28年度の研究成果を、各テーマ別に述べる。(A)優先富化現象を示すラセミ体の医薬品などの生理活性物質の二成分共結晶の探索とその機構解明:優先富化現象を示した第一世代キラル有機医薬品化合物に注目し、優先富化現象の2つの鍵プロセス「結晶化の際に起こる溶媒アシスト型多形転移」と「母液中でのキラル増幅」のメカニズムについて検討した。前者については、in situ温度調節ビデオ顕微鏡とin situ X線回折測定法を併用して多形転移の観察に成功した。一方、後者については、結晶化の際の多形転移後に起こる両エナンチオマーの非線形な溶解度特性がキラル対称性の破れの原因であることを、熱力学計算を行いて明らかにした。ついで、このメカニズムを説明する三成分溶解度相図を提唱した。(B)キラル有機ラジカル化合物を起点とするメタルフリーな磁性ソフトマテリアルの合成と機能および磁気液晶効果発現の機構解明:デイスコチック液晶相を示すメソ体のジラジカル有機化合物の合成に初めて成功し、その液晶相を同定した。次いで、SQUID磁束計を用いる磁化率の温度依存性の測定により、この化合物が「正の磁気液晶効果」を示すことを見出した。一方、疎水性ニトロキシドラジカル化合物を非イオン性界面活性剤に内包させて調製した安定なメタルフリー磁性ナノエマルションが、(1)in vitroでMRI造影能を有すること、および(2)さらに疎水性抗がん剤を内包させることにより、in vitroでがん細胞に取り込まれて細胞毒性を示すことを明らかにした。したがって、この磁性ナノエマルションは、MRI追跡が可能なDDSキャリアとして利用できる可能性が高いことが判明した。
2: おおむね順調に進展している
平成26, 27年度に引き続いて28年度の研究もおおむね予定どおり推進できた。テーマ(A)では、エクスプロバンス大学とルーアン大学との共同研究により、優先富化現象の2つの鍵プロセス「結晶化の際に起こる溶媒アシスト型多形転移」と「母液中でのキラル増幅」のメカニズムについて検討し、それを証明することができた。一方、テーマ(B)では、デイスコチック液晶相を示すメソ体のジラジカル有機化合物の合成に初めて成功し、この化合物が大きな「正の磁気液晶効果」を示すことを見出した。また、調製法を確立したメタルフリー磁性ナノエマルションがin vitroでMRI造影能とDDSキャリア能を有することが判明し、in vivoでMRI追跡が可能なDDSキャリアとして利用できる可能性が高くなった。
テーマ(A)については、今後も優先富化現象を示す医薬品の検索を行い、それぞれの場合の優先富化現象の特徴とメカニズムを明らかにし、一般性の拡張に努める。テーマ(B)については、デイスコチック液晶相を示すジラジカル有機化合物を数種類合成し、それらを用いて「正の磁気液晶効果」の磁性発現の機構について検討する。また、メタルフリー磁性ナノエマルションについては、小角中性子散乱による構造解析を行う。同時に、マウスを用いる動物実験を開始し、in vivoでのMRI造影能と抗癌剤運搬能についての評価を行う。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 5件、 査読あり 11件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (2件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
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