研究課題
平成29年度の研究成果を各テーマ別に述べる。(A)優先富化現象を示すラセミ体の有機医薬品などの生理活性物質の探索とその機構解明:これまでに優先富化現象を示した一連の第一世代キラル有機医薬品化合物について、第二次高調波発生(SHG)の有無を検討したところ、優先富化実験により析出した結晶が必ずSHGポジテイブとなることが判明した。一方、優先富化現象を示さなかった類縁化合物の析出結晶はSHGネガテイブとなった。したがって今後、SHG測定は優先富化現象を示す新化合物探索のための有力な手段になると期待できる。また新たに、ある有機カルボン酸抗炎症剤(CPPPA)が、イソニコチン酸アミドと共結晶化させることにより、高効率で優先富化現象を示すことを発見した。(B)キラル有機ラジカル化合物を起点とするメタルフリーな磁性ソフトマテリアルの合成と機能および磁気液晶効果発現の機構解明:非晶質固相からヘキサゴナルカラムナー液晶相への転移の際に大きな「正の磁気液晶効果」を示すことが明らかになったメソ体のジラジカル有機化合物が、非晶質固体相でも低磁場下で強い磁気相互作用を示すことを発見した。また、MRI追跡可能なDDS磁性キャリアとして利用することを目的として、疎水性ニトロキシドラジカル化合物を非イオン性界面活性剤に内包させて調製した安定なメタルフリー磁性ナノエマルションを開発した。平成29年度は、ナノエマルションの界面活性剤由来の生体毒性を下げるため、最適界面活性剤の探索を行った。その結果、分岐型ポリエチレングリコール型界面活性剤が疎水性ニトロキシドラジカル化合物を内包して、安定なナノエマルションを調製できることが判明した。このナノエマルションはさらに疎水性の抗癌剤や蛍光剤を内包することも明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度の研究もおおむね予定どおり進行した。テーマ(A)では、ルーアン大学との共同研究により、SHG測定が優先富化現象を示す化合物を探索する場合の有力な手段となることが判明した。また、新たに優先富化現象を示す抗炎症剤を見つけた。テーマ(B)については、ヘキサゴナルカラムナー液晶相を示すジラジカル有機化合物が、液晶相のみならず非晶質固体相中でもユニークな超常磁性様の磁性を発現することを発見した。また、毒性の低いメタルフリー磁性ナノエマルションの調製にも成功し、in vivoでのMRI追跡型DDSキャリアとして使用できる目処が立った。
平成30年度は本研究の最終年度であり、集大成を行う。テーマ(A)については、優先富化現象のメカニズムは化合物の分子構造に依存するため、同位体元素を用いてこの点を明らかにしたい。テーマ(B)については、正の磁気液晶効果の発現と超常磁性構造の関係について明らかにしたい。同時に、担癌マウスを用いる動物実験により、抗癌剤内包磁性ナノエマルションの有効性について検討する。
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