研究課題/領域番号 |
26248031
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
柳 日馨 大阪府立大学, 研究推進機構, 特認教授 (80210821)
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研究分担者 |
福山 高英 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60332962)
植田 光洋 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (60566298)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 位置選択的反応 / C-H結合活性化 / 光触媒 / ラジカル極性効果 / ラジカル立体効果 / デカタングステートイオン / パラジウム |
研究実績の概要 |
ポリオキソデカタングステートを光触媒とするC-H結合の位置選択的開裂反応がラジカル極性効果によって高度に制御できることを、多くの実例で実証した。その際の極性基はケトン、エステル、アミドなどのカルボニル基、シアノ基が有効であったが、これに、加えて、アルキル側鎖を有するピリジン誘導体に焦点を当て検討した。その結果、例えば2-ピリジルアルカンの場合には窒素-炭素ヘテロ結合に基づく極性効果により、ベンジル位が回避されることを見出した。3および4-ピリジルアルカンを用いた場合にも、フェニル基とは対照的にアルキル置換基のα位でのC-H結合の開裂は起こらず、遷移状態における極性効果の発現を見いだすことができた。また分子量の大きな多置換分子を対象として詳細な検討を加える目的で様々な置換シクロペンタノンやシクロヘキサノンの位置選択的なC-H結合開裂反応に取り組み、立体効果による位置選択性の発現に成功した。また、これに加えて、環状エステルであるラクトンについても置換基による立体効果が水素引き抜きの遷移状態に与える影響について詳細に調べた。直鎖状置選択性の発現については特にt-ブチル基に隣接するネオペンチル位でのC-H結合開裂はほとんど見られないことを、複数の基質で確認したが、脂環式化合物でも同一炭素にメチル基を二つ持つ基質では隣接するメチレン炭素でのC-H結合の開裂は生起しないことを確認した。 本年度にはアリールラジカルのカルボニル化反応を分子内求核捕捉と組み合わせたベンゾラクタムやベンゾラクトンの合成に発展させた。特に芳香族ヨージドを光照射下にさらす系と、250度の高温にさらす系の、有効性について検証した。 またPd二核錯体の光照射によるホモリシスを経る光制御型のラジカル反応については、重合系でのリビング性を担保する反応機構に関してPdが関与する錯体について有益な知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は前年度の成果を踏まえ、デカタングステートイオンを光触媒とするC-H結合の位置選択的官能基化の手法開発において順調な研究の進展と成果を得た。環状ケトンとラクトンを用いたラジカル極性効果による位置選択性が高度に制御にできる事例に加えて、他のC-H結合に関しては、立体化学的要因により、位置選択性が担保される事例を複数創出することができた。また、極性効果と立体効果の相乗効果を発揮させる系の創出についても、進展が見られており、研究は順調に進展しているものと判断される。 各種のアミン共存下に芳香族ハロゲン化物やアルケニルハロゲン化物を光照射下ないしは高熱下でさらすことで、ホモリシスが生起し、生成したラジカルの高効率還元を幅広い基質において達成することができた。当初用いたトリエチルアミンに加え、環状ジアミンであるDABCOを用いることで、効率性が向上することを見出したことから、研究は順調に進展しているものと判断される。また、光照射下ですでに達成しているアリールラジカルのカルボニル化反応が、分子内での水酸基やアミノ基を有する基質に適用できる条件を見いだすことが出来たことからベンゾラクトンやベンゾラクタムの合成法へと発展しつつある。また、Pd錯体の光照射によるホモリシスを経る光制御型反応についてはアリルスルフォンとの組み合わせで、脂肪族ヨージドのアリル化に成功したことから、つづくビニル化も射程に入っており研究は順調に発展している。
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今後の研究の推進方策 |
デカタングステートイオンを触媒として、光照射による励起を経るC-H結合の官能基化手法は、ラジカル反応にして位置選択的性の発現を達成できる手法として極めて有望である。このことをエステル、ケトン、カルボン酸、アミドなどのカルボニル基を有する数多くの反応基質を用いた実例で実証してきたが、さらに実例を増やしながら、多置換天然化合物の修飾を含めて大きく研究を展開させることで、世界的にインパクトのある成果を創出する。通常の有機アルコキシラジカルとの反応挙動の比較検証は本研究課題における成果の一般化をはかる上で特に有意義であるが、t-BuOラジカルによるC-H結合の水素引き抜き反応をシクロペンタノンを用いて検討した結果、期待通りβ位での選択的結合開裂を確認できた。しかし本系は収率に問題があるため、最適条件の検討に力を入れ、合成化学的に有用な手法として極めることとしたい。光照射下でのPd系触媒反応によるビニル化反応においてはアリルスルフォンでのアリル化の成功条件を踏まえて、ビニルスルフォンをビニル化試薬とする系の効率性の向上に力点を置く。また、ルテニウムやイリジウムのフォトレドックス触媒との比較検証で、系全体の有用性を議論して行く。なお、これらの光ラジカル反応系は連続フロー系を用いてコンパクトな光源を活用することができるものと期待されるため、最終年度においては、フロー系での実際的な検討にも力点を置くこととする。
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