研究課題/領域番号 |
26248033
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大北 英生 京都大学, 工学研究科, 教授 (50301239)
|
研究分担者 |
玉井 康成 京都大学, 工学研究科, 助教 (30794268)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 一重項励起子 / 三重項励起子 / 次元性 / 結晶性共役高分子 / J凝集 / 超放射 / 一重項分裂 / 分子内電荷移動 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、以下の研究項目ついて検討した。 【H凝集およびJ凝集構造における励起子拡散ダイナミクスの解明】本研究では、J凝集性を示す結晶性共役高分子PNOz4Tを対象として、励起子拡散ダイナミクスを過渡吸収分光測定により観測した。その結果、室温付近では2次元拡散が支配的であり、低温では1次元拡散が支配的になることを見出した。このように励起子拡散の次元性が温度により変化する原因は、励起子拡散の活性化エネルギーに異方性が存在するためであると考えられる。 【高度に結晶化した共役高分子膜における励起子ダイナミクス】P3HTは通常H凝集構造の結晶相を形成するが、PMMAなど表面エネルギーの高い高分子媒体とブレンド膜を形成すると、表面に偏析することで高度に結晶化が進行したJ凝集構造の結晶相を形成することを見出した。この高結晶膜に対して過渡吸収分光測定を行ったところ、励起子寿命が数psにまで著しく短寿命化するという特異な現象を見出した。発光の量子収率が通常の薄膜状態と大差ないことから、輻射速度が著しく増大していることが分かった。高分子系では報告例がほとんどみられないが、超放射による短寿命化である可能性が高いと考えられる。 【分子内D-A特性を有する結晶性共役高分子における一重項励起子分裂】主鎖骨格に電子ドナー性ユニットと電子アクセプター性ユニットを有する狭バンドギャップ共役高分子における非緩和励起状態からの一重項分裂を検討した。その結果、分子内D-A特性を有する結晶性のPDPP3T薄膜では三重項励起子が効率よく生成することを明らかにした。励起波長依存性を検討した結果、1.7 eV付近に生成の閾値が存在することが分かった。この値は、S1準位から見積もったT1準位エネルギーのおおよそ2倍に相当することから、励起子三重項は一重項分裂により生成していると結論した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、J凝集性の結晶性共役高分子において一重項励起子が2次元拡散することを見出すことができた。さらに、拡散の次元性が温度により依存することから励起子拡散の活性化エネルギーに異方性が存在することが分かった。また、高度に結晶化したP3HT偏析膜では著しく大きな輻射速度を明らかした。超放射の可能性がありきわめて興味深い。また、一重項分裂については分子内-A特性を有する結晶性共役高分子における三重項励起子生成機構が一重項分裂である明らかにすることができ、当初計画どおり着実な進展が見られた。
|
今後の研究の推進方策 |
励起子拡散ダイナミクスの次元性については、分子鎖内と分子鎖間での励起子相互作用の違いと拡散の異方性について定量的な検討をさらに深める。高度に結晶化したP3HTにおける超放射とみられる現象については、スペクトルの先鋭化など超放射に特徴的な現象が見られるか検証を行う。また、分子内-A特性を有する結晶性共役高分子における一重項分裂については、三重項励起子の生成効率を定量し、他の系の比較を行うことで分子内-A特性と一重項分裂の関係を探究する。
|